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 公立置賜総合病院(山形県川西町)は2015年に総合診療科を開設し、診療と並行して専攻医の指導も行っている。原因の分からない疾患を診ることが多い総合診療医には、広範囲にわたる医学的知識が求められるが、いったいどのような指導がなされているのか。総合診療医が学ぶべきこと、プライマリ・ケアや家庭医との違い、地域医療に対する考え方などについて、同院総合診療科診療部長の高橋潤氏に話を聞いた(2021年12月14日にインタビュー。計3回連載)。

公立置賜総合病院総合診療科診療部長 高橋潤氏

――高橋先生は週3日の総合診療科の外来以外にも、サテライト病院の内科や呼吸器科、他院の内視鏡など、さまざまな診療科へ応援に行かれています。そのあたりも総合診療医の特徴の一つでしょうか。

 そうですね。総合診療医というのは、他の先生方が考えないような疾患を想起して原因を突き止めることが大きな仕事の一つで、「自分の専門ではない」と断らないことこそが総合診療の専門性と言えます。自分が専門的にできる診療だけをするのではなく、患者が求めることに対して自分にできることの全てを尽くす仕事だと思っています。

――広範囲にわたる疾患の知識が必要になると思われますが、いわゆるスペシャリストの専門医とは勉強の仕方も変わってくるのではないですか。

 UpToDateやDynaMedなど、臨床の最新情報が得られるオンラインのツールを使って、新しい病気の情報をできるだけ拾い上げる努力をしています。そうやって、いろいろな病気について、最低でも60点は取れる知識を持てるようにはしています。当然、60点に及ばない分野もありますが、そこはその都度調べることで対応できるようにはしています。あらゆる病気に関してそれなりの話ができれば、他の診療科の先生につなぐときに「高橋先生が言うのだからそうなのだろう」と受けてもらいやすいですし、先生方も治療が終わった後のフォローをこちらに頼みやすくなります。

 全ての領域において60点までとする必要はなく、自分の得意なところ、好きなところがあってもいいと思います。私の場合は内視鏡、在宅医療、緩和ケア、褥瘡などの分野が好きで得意としているので、80点から100点くらいのレベルを目指しています。

 日々勉強して知識を入れる一方で、分からないことはすぐに調べることが大事です。試験のための勉強ではないので、全てのことを覚える必要はありません。情報が必要になったときにUpToDateなどのツールを使えばいいのです。分からないことがあった時にどうしたら必要な情報に行きつけるか。そのアプローチが分かっていることも総合診療医として大切なことです。

――新専門医制度の実施に合わせて、先生は総合診療医の研修プログラムを作成されました。

 日本専門医機構の基準に合わせて研修プログラムを作成しています。総合診療Ⅰでは、県内の診療所や中小病院などで、外来、入院、在宅など、いろいろな場における診療経験を積みます。一方で、乳幼児健診、予防接種、学校医、保健・福祉関係の行政との関わりなどから、患者として受診する人だけでなく多くの住民と関わることで、地域の問題を認識してどう改善するかを考える能力を涵養します。

 総合診療Ⅱでは、総合病院などに勤務し、外来、病棟、救急などで多疾患併存や未分化な疾患に対しての対応を経験します。ここでは各専門医との協働、研修医・専攻医や看護師などの他職種に対する教育能力などを涵養します。

 あとは内科、小児科、救急それぞれの診療科で、common diseaseへの対応を経験していきます。

――総合診療科ならではの研修として工夫していることはありますか。

 当科では、週に一回、症例のカンファレンスを開いていますが、そこでは疾患のことだけではなく、専攻医に自分自身のことも話してもらうようにしています。診療中に自分がどんな感情を抱いたかとか、自分の中に何かもやもやしているものはないかとか。思い通りにいかないことがあったときに陰性感情を抱いてイライラしてしまったことなどを聞いて、「そのときどう思ったのか」「どうしたらよかったのか」を考えてもらうと、冷静に振り返ってメタ認知ができます。すると次に同じ状況になったときに自分を抑えられるようになります。これは医学教育の中で大切で、特に総合診療においては重要なことだと思っています。

 例えば、アルコール依存症の方にお酒を控えるようにと指導しているのに、次に診察に来たときに「飲んでしまいました」と言われたらイライラしますよね。でも、そこでイライラするのではなく、「なぜ飲んでしまうのか」「何か理由があるのではないか」と考えてあげられるようになると、改善策が見つかるかもしれないし、自分も冷静に話を聞けるようになるものです。

 困った症例を担当したときに自分で解決する能力を鍛えるためには、やはりアセスメントが大事です。それができるようになるには、自分の中の陰性感情をコントロールしなければなりません。ですからメタ認知のための訓練として、専攻医には診療の中で抱えたもやもやした感情を吐き出してもらいたいと考えています。

 しかし、専攻医たちは自分の感情についての話はあまりし慣れていないようで、カンファレンスでは疾患についての話ばかりになってしまいます。なので、私は週3回の外来診療の中で、専攻医が診療をしているのをカーテンの裏で聞き、後からどう思ったかを尋ねるというやり方でも指導しています。

――総合診療医は、プライマリ・ケア医や家庭医との差異が分かりにくいという方が多いようです。違いはどこにあるのでしょうか。

 それぞれに大きな違いはないというのが、私の考えです。生息地の違いだけではないでしょうか。例えば同じニホンザルでも、青森県にいるのもいれば、東京都にいるものもあって、それぞれ環境が違えば生態も変わってきます。それと同じように、開業医の先生のように外来をメインしている方はプライマリ・ケア医。家庭医療や患者の家族にも興味を持つ方が家庭医。総合診療医はどちらかというと、病院を生息地としている医師ということでしょう。

 外来であれ在宅であれ、病棟であれ救急であれ、われわれにとって重要なことはその場その場で求められることに対してきちんと対応できるかです。場所や状況によって医師に要求されるものは違うわけですから、自分にできることしかやらないのではなく、それぞれの場で求められていることをしっかり提供できることが大事なのです。われわれがすべきことは、どんなことにも対応できるように日々準備しておくことだと思います。

 これは総合診療医だからということではなく、医師は皆そうあるべきだと思っています。ですから、患者から求められれば自分の専門領域にとどまらずに対応するというジェネラルな姿勢は、総合診療医の専門性としてあえて19番目の基本領域に限定することなく、臓器別のスペシャリストの先生方にも持ってほしいのです。ただ、プライマリ・ケアをされていたり、地域を支えておられたりといった開業医の先生方に、ジェネラルとしてのスペシャルティが与えられるようになるのはいいことです。

 初めからジェネラルな医師を目指したいという若い先生にとっても、総合診療医というレールをつくってあげることは意義があるでしょう。一度スペシャリストになってからジェネラリストになる過程を選ぶ医師もいますが、一度スペシャリストの道を選ぶと、そのままそちらに残ってジェネラルマインドを捨ててしまう人が意外と多いのです。

――総合診療医は地域医療においてキーパーソンとなることが期待されています。

 確かにキーパーソンにはなるでしょう。しかし、地域医療において、医師はあまりでしゃばらないほうがいいと思います。地域包括ケアシステムにおいても同様ですが、あまり医師が前に出すぎると、患者や多職種のスタッフが対等に物を言えなくなってしまうからです。

 地域で医療を行うことだけが地域医療ではないのです。地域医療において、医療は地域の一部でしかありません。自治医科大学出身で私の後輩に当たる四方哲先生は、著書『地域医療学のブレークスルー』(中外医学社・2021年)の中で、地域医療における医師の態度として地域との近接性を重視し、「その地域に友人がいること」という言葉で地域医療者のあるべき姿を表現しています。また家庭医療の第一人者であるカナダのIan R McWhinney先生も、家庭医療の原理の一つとして「医師は患者の近隣に住むべきである」と述べられています。

 病気というのは、われわれ医師と地域との間にコネクションを作るきっかけとして現れた現象の一つでしかありません。患者の背景には、住んでいる家、文化、回りの人との関係性などが深く関わって存在しているはずです。例えば、アルコール中毒の人や糖尿病の人は、ただ飲みたくて飲んでいたり、食べたくて食べたりしているというよりも、貧困や仕事などに起因する孤独のためにそうせざるを得ないのかもしれません。そうしたSocial Determinants of Health(健康の社会的決定要因)も考慮して、社会的処方なども含めたきめ細かな部分まで考えていくことが地域医療なのだと思っています。

 diseaseではなくillnessを診るということです。つまり、医療それ自体が目的なのではなく、医療をきっかけとしてその地域を改善していくこと、自然環境や文化的背景も含めた地域そのものを診ることが、本当の地域医療ではないでしょうか。

◆高橋 潤(たかはし・じゅん)氏

1991年、自治医科大学卒業。県立中央病院、飯豊町立中央診療所、朝日町立病院などを経て、2015年より現職。教育研修部副部長、医療連携部副部長兼務。日本医師会産業医、日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医、日本病院総合診療医学会認定病院総合診療医。

【取材・文・撮影=渡辺悠樹】

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