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日本福祉大学名誉教授の二木立氏は4月18日、神奈川県保険医協会・医療問題研究会の講演で、政府があくまで「かかりつけ医機能の制度整備」を進めるのであって、「かかりつけ医の制度化が閣議決定」と読み違えたメディアを「空騒ぎ」と批判した。
かかりつけ医機能の制度整備については、関連法案の審議が今通常国会で進んでいる。二木氏は、法改正による「かかりつけ医機能の強化」と、それ以外の改革により今後は医療機関の役割分担が進み、患者の大病院志向も是正されると期待した。「中小病院外来と診療所のフリーアクセスは今まで通り維持し、『かかりつけ医』を必要と感じる患者は自由にそれを選択すればよいと思う。フリーアクセスを制限すると国民・患者の医療満足度が確実に低下する反面、財務省等が期待している医療費節減は生じない可能性が大きいからだ」。これが二木氏の結論だ。
「空騒ぎ」について二木氏は、「一部メディアは、それにより医療費が抑制できるとも期待していた。イギリス流の登録制・人頭払い制の導入が必要・必至と述べ、多くの診療所医師の不安をかき立て、それにより医療費が抑制できるとも期待していたが、プライマリケアの拡充で医療費は抑制できない。むしろ増加する」と指摘。「かかりつけ医の制度化」への懸念は現時点ではなく、「既に決着が付いた問題」であると強調した。
法改正が行われた場合、2024年度の診療報酬改定でどう評価されるかに注目が集まるが、地域包括診療料の拡充がかかりつけ医機能評価の出発点になると見通した。
質問で出た一つが、総合診療専門医を目指す医師が少ない現状について。二木氏は、「総合診療専門医を増やすことと、かかりつけ医機能の制度整備は全然別の問題であり、結び付けると話がこじれると思う」と答えた。「プライマリケア機能を高めることには、私は大賛成。医学教育レベルでプライマリケアを重視することは必要」。
医師の働き方改革にも質問が及び、医療機関の機能分化に関連付けて、二木氏は次のように回答した。「取り組みが遅れているからと言って、改革を延ばすことは政治的に不可能。ただ一方で、いろいろな制度改革によって、大病院の外来が相当抑制されることが期待される。改革直後はいろいろなことが起きるかもしれないが、長い目で見れば、落ち着くところに落ち着くだろう。だから改革の旗は下ろすべきではない。また改革の対象には、勤務医だけでなく開業医も含めることが長期的には必要」。
1.「かかりつけ医の制度化」の空騒ぎの検証
プライマリケア「良かろう、高かろう」は当たり前
二木先生の講演タイトルは「日本医療の歴史と現実を踏まえたかかりつけ医機能の強化-半年間の論争を踏まえて」で、(1)「かかりつけ医の制度化」の空騒ぎの検証、(2)日本医療の歴史と現実を踏まえたかかりつけ医機能の充実強化-私の考えと提案―という2本立てだ。
(1)については、「既に決着が付いた問題」と説明。長年、20誌以上の医療経済学や医療政策研究の英語雑誌を毎号チェックしてきた結果、「プライマリケアの拡充が医療の質を引き上げることを示した実証研究があることは確認できている。しかし、プライマリケアの拡充が医療費を抑制することを示した実証研究は読んだことがない。逆に、プライマリケアの拡充により医療費が増えるか、医療費は変化しないとの良質な研究はたくさんある」と述べ、プライマリケアと医療費と医療の質の三者(または二者)の関係について検証した35論文から9論文を精選して、その概要を紹介した。
「決して不思議なことではない。一般の医療と同じく、プライマリケアでも、医療の質を改善しつつ医療費を抑制することは困難で、『良かろう、高かろう』であるという極めて当たり前のことが確認できた」。
「かかりつけ医の制度化が閣議決定」の言説は二重に間違い
2022年6月の閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針2022」には、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」と書かれた。二木氏は、「かかりつけ医の制度化」が閣議決定されたとの論説、は二重に間違っていると指摘。
第1の誤りは、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」と「かかりつけ医の制度化」とは異なること。後者は前者の一部・選択肢とも言えるが、政府の公式文書で「かかりつけ医の制度化」を決定したり、それを目指すとしたものはない。「かかりつけ医の制度化」論者の主張の第2の誤りは、「かかりつけ医」が診療所医師のみを指すと思い込み、それに病院(特に中小病院)が含まれることを見落としていることだ。
続いて、二木氏は、▽「平時」と「非常時(感染症有事)」の対策は区別する必要、▽イギリス型のかかりつけ医の登録制・人頭払い制導入はなぜあり得ないのか、▽2022年12月の全世代型社会保障制度構築会議報告書の「かかりつけ医」関連の提言の評価――についても言及。
「平時」と「非常時(感染症有事)」の対策は区別する必要の論拠の一つとして、次のように説明した。「『かかりつけ医の制度化』論者は、例外なく、コロナ危機時に日本医療の脆弱性が明らかになったと主張し、平時に『かかりつけ医の制度化』をしておけば、非常時にも速やかに対応できるとしている。しかし、今回のコロナ危機の初期には、効果的な治療法はほとんどなく、死亡率も相当高いと想定されたため、患者に対応できたのは、主に重装備の急性期病院であり、プライマリケアの出番はごく限られていた。このことは、日本に限らず、世界共通」。
イギリス型のかかりつけ医の登録制・人頭払い制導入があり得ない理由としては、(1)医療にはそれぞれの国の歴史がある、(2)プライマリケアの拡充で医療費は抑制できない、むしろ増加する、(3)国民が現在のフリーアクセスに慣れ親しんでおり、それを大幅に制限するかかりつけ医の登録制、すなわち厳格な「ゲートキーパー」制には大反対する――の3つを挙げた。The Economistの2023年1月号に「イギリス国民のGPに対する信頼はコロナ禍後半減」という記事が書かれたことも紹介した。
全世代型社会保障制度構築会議報告書の「かかりつけ医」関連の提言の評価については、「2022年5月に発表された『議論の中間整理』に書かれていた、『今回のコロナ禍により、かかりつけ医機能などの地域医療の機能が十分作動せず、総合病院に大きな負荷がかかるなどの課題に直面した』という(私から見て)不正確で、しかも診療所医師に侮蔑的とも言える表現が削除されたことに注目した」という。「総合病院」という名称は1997年施行の第三次医療法改正時に廃止されており、法的には「死語」であり、公式文書に用いるのは不適切とも指摘した。
2.「日本医療の歴史と現実を踏まえたかかりつけ医機能の充実強化」
二木氏は、まず▽自身の医療制度改革についての基本的スタンス、▽プライマリケアをめぐる日本医療の歴史と現実(フランス・ドイツとの違い)、▽かかりつけ医機能を含め、平時(平常時)と非常時(感染症有事)の医療機能は区別すべき、▽医療法改正案の「かかりつけ医機能の確保に関する事項」の複眼的評価――の4点について説明。
その上で「私は今回の改正案は大枠では妥当・現実的と評価しているが、『火種』が残っている」と警鐘も鳴らした。かかりつけ医機能に関わる診療報酬としては、現行の地域包括診療料の拡充が合理的・現実的と主張。その上で、患者の大病院志向の是正は「かかりつけ医機能の強化」とそれ以外の改革により相当進むと予測した。
その講演骨子は以下の通り。
1.医療制度改革についての基本的スタンス
第1は、医療の質の改善にはある程度の医療費増加が必要で、そのための財源確保策を検討・提示することが不可欠。私には、「かかりつけ医の制度化」で医療費を抑制できるとの主張は、安倍内閣時に経済産業省等が主張した、予防医療の推進で医療費が抑制できるとの主張と同根の、「エビデンスに基づく」ことのないファンタジーに見える。
第2は、各国の医療制度は各国の文化的・社会的・政治経済的条件に規定されているため、他国の制度を「つまみ食い」的に日本に移植することは不可能。
第3に、医療は医師と患者との「信頼関係」・「協働作業」を基礎にしていると考えており、それを崩す「上から目線」の改革、ましてや財政優先の改革には強く反対する。
第4に、私は決して「守旧派」ではなく、医療者・医療団体の自己改革は不可欠と考えている。コロナ報道と「かかりつけ医の制度化」の空騒ぎを通して、医療団体、特に日本医師会が積極的に情報発信・広報を行わないと、医療情報でも「悪貨が良貨を駆逐する」と感じている。
2.プライマリケアをめぐる日本医療の歴史と現実-フランス・ドイツとの違い
第1は医療提供体制の違い。フランスとドイツは、イギリスと同じく、診療所開業一般医による外来医療と病院勤務専門医による入院医療の機能分化が厳格に行われているが、日本では、医療過疎地を除き、多数の医療機関が共存する多くの地域(特に都市部)では、診療所開業医の大半は相当水準の専門医機能を持ちつつかかりつけ医機能を果たしており、中小病院の勤務医の大半も外来で専門医機能とかかりつけ医機能の両方を果たしている。
第2は患者の窓口負担の違い。ドイツとフランスは診療所受診時の窓口負担が(実質的に)ない。それに対して、日本では全ての外来患者に1~3割の定率負担が課せられている。窓口負担がある限り、「かかりつけ医」を制度化し、それの支払いを包括・定額払い、ましてや人頭払いにすることは不可能・
第3は医療の平等性の違い。ドイツ・フランスは何らかの2段階医療で、高所得患者は追加負担により別建ての医療を受けられる。それに対して、日本の皆保険制度は、貧富の差によらず全国民に平等な医療を提供。
私は、以上の日本医療の現実を踏まえて、「平時(平常時)」のかかりつけ医機能の強化を図るべきと考える。
3.平時(平常時)と非常時(感染症有事)の医療機能は区別すべき
かかりつけ医機能を含めて、医療機能は「平時(平常時)」と「非常時(感染症有事)とで区別すべきと考える。
「コロナ禍により、本来なら高齢化が進んだ20年後に起きるはずだった事態が一気に現れた」との主張も散見されるが、突発的に生じ、いずれは収束するコロナ感染爆発と、今後、20年かけて徐々に生じ、しかもその影響が長期間続く高齢化の影響を同一視することには無理がある。
日本で、コロナ感染爆発時に、特に大都市部で医療機能(入院・外来)が逼迫したこと、また多くの診療所で発熱外来がパンク(オーバーフロー)したことは事実だが、これは世界共通の現象。仮に全国民対象の「かかりつけ医制度」があったとしても防げなかったと思う。新聞報道と異なり、コロナ感染爆発後の2020~2022年に出版された文献(研究書・研究論文かそれに準じるもの)で、コロナ対応「失敗」の原因・「犯人」として、診療所(医師)を挙げたものはほとんどない。
厳しい言い方をすれば、コロナ感染爆発という「惨事」を理由(口実)にして、全国民対象の「かかりつけ医の制度化」を求めるのは、私には一種の「ショック・ドクトリン」(ナオミ・クライン)に見える。
かかりつけ医が機能しなかったとの言説への疑問
一部メディアが、コロナ患者激増時に大都市部(特に東京と大阪)で局所的に生じた混乱現象を、あたかも全国で生じたかのように報じ、それが国民・患者の医療不信・不安を増幅した面が強いのではないかと疑っている。その理由は以下の通り。
第1に、私の地元の愛知県・名古屋市ではそのような報道(新聞・テレビ)は、現在に至るまでほとんどない。これが私の「肌感覚」での疑問。
第2に、私の調べた範囲では、全国紙でも、診療所がコロナ疑い患者を拒否したとの報道はほとんどエピソード・レベルにとどまり、大量の「エビデンスに基づく」調査報道はない。この点は、2021年1月に突発した(民間)病院はコロナ患者を受け入れていないとの「病院バッシング」報道が、曲がりなりにも統計数値を示していたのと全く異なる(ただし、その大半は「統計でウソをつく法」だったが)。
しかもエピソード・レベルですら、患者の訴え・不満のみを報じ、診察を拒否した(大半はできなかった)診療所側の事情(医師が高齢、空間的・時間的にコロナ診療と一般診療の動線を分けられない等)についての報道はほとんどなく、バランスを欠く。
第3に、認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(累計66,000件、毎月100件以上)の山口育子理事長に、「電話相談で、2020年のコロナ禍後、診療所またはかかりつけ医(と思っていた医師)に診療を断られたとの苦情は増えましたか?」と尋ねたところ、「ほぼ届いていません」「私も非常に個別的な事例をさもどこでも起きているかのように利用されているように思っています」との返事だった(1月20日私信メール。公開許可済み)。
コロナ禍を通して国民の医療に対する信頼は高まった
コロナ感染拡大期の医療機関の対応は、国民の医療への信頼を高めたことが、2021年11~12月に行われた「ISSP国際比較調査『健康・医療』」で示されている。本調査は、コロナ感染の蔓延時期に行われたにもかかわらず、日本の医師や医療制度に対する信頼は非常に髙く、「信頼できる」は医師で70%、医療制度では87%に達し、前回2011年のそれぞれ60%、65%より相当高まっていた。その上、コロナの感染拡大への対応は医療制度に対する信頼を「高めた」が41%で、「低下させた」の21%を大きく上回っていた。それに対して「政府への信頼を高めた」は18%にすぎず、「低下させた」が44%。この結果について、執筆者(村田ひろ子氏)は「ワクチンの十分な確保や、医療従事者の献身的な治療によって、感染拡大を抑えていたことが、医療や医療制度に対する人々の信頼を高める要因の1つになった」と解釈している。
厚生労働省の2020年「受療行動調査」(2020年10月実施。調査対象は病院の患者)でも、病院に対する全体的な満足度は外来では64.5%で、コロナ禍前の2017年の59.3%から5.2%ポイントも上昇。日医総研「第7回日本の医療に関する意識調査」(2020年7月実施。調査対象は国民)でも、「受けた医療の総合満足度」は92.4%、「日本の医療全般の満足度」は76.1%と非常に高く、しかもコロナ禍前の2017年調査よりも微増。
これらの結果は、ジャーナリズム等の日本医療・医師会に対する否定的報道に対する有力な反証になっている。それに対して、「かかりつけ医の制度化」論者が美化することが多いイギリスのGPに対する満足度は、コロナ禍前の2019年度の68%から、2021年には38%へと激減。
4.医療法改正案の「かかりつけ医機能の確保に関する事項」の複眼的評価
次に、医療法改正案中の「かかりつけ医機能の確保に関する事項」の評価を行う。
「かかりつけ医機能の確保に関する事項」のポイント
「かかりつけ医機能の確保に関する事項」は多岐にわたるが、以下の3つが重要だと思う。
第1は、「病院、診療所又は助産所」(以下、病院等)は、「医療を受ける者が身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能(以下、かかりつけ医機能)その他の病院等の機能」についての情報を、「所在地の都道府県知事に報告するとともに、当該事項を記載した書面を当該病院等において閲覧に供しなければならない」こと。
第2は、上記「かかりつけ医機能」を、以下の5つと明示(法定)したこと。(1)外来医療の機能、(2)休日・夜間の対応、(3)入退院時の支援、(4)在宅医療の提供、(5)介護サービス等と連携。
第3は、「かかりつけ医機能」の確認を受けた病院等の管理者は、「慢性の疾患を有する高齢者その他の継続的な医療を要する者に対して、居宅等において必要な医療の提供をする場合、その他外来医療を提供するに当たって説明が特に必要な場合として厚生労働省令で定める場合であって、当該継続的な医療を要する者又はその家族からの求めがあったときは、正当な理由がある場合を除き、電磁的方法その他の厚生労働省令で定める方法により、その診療を担当する医師又は歯科医師により、当該継続的な医療を要する者又はその家族に対し、次に掲げる事項[疾患名、治療に関する計画等]の適切な説明が行われるよう努めなければならない」こと。
改革の総括的な評価-大枠では妥当・現実的
先述したように、医療制度の「抜本改革」は不可能であり、日本医療の歴史と現実を踏まえた「部分改革」を積み重ねる必要があると考えているので、今回の改革案は大枠では妥当・現実的と思う。この改革が実施されれば、平常時の「かかりつけ医機能」が強まり、かかりつけ医を持つことを希望する国民・患者への情報提供と彼らの「選択の自由」が大幅に拡大・強化すると思う。この改革が「かかりつけ医機能の強化」の「第一歩」となり、「小さく産んで大きく育つ」ことを期待している。
今後、医師・医療機関は自己の「かかりつけ医機能」について都道府県に積極的に「報告」し、医師会は会員にそれを督励することが求められる。私は、地域の医師会が自治体と協力して、かかりつけ医を持つことを希望しながら、自分で探すことが困難な住民・患者(特に高齢者)に、かかりつけ医(の候補)を紹介する仕組みを整備すれば、かかりつけ医を持つ患者は大幅に増えるだろう。
ただし、「火種」は残る
「かかりつけ医機能」の定義だけでなく、5つの細かい機能までも医療法の条文に書き込んだことには疑問を持っている。このような具体的事項は医療法の本体ではなく施行細則等に書くという慣例に反し、将来的に、医師に対する規制強化のテコになる危険があるからだ。
社会保障審議会医療部会の2022年11月28日会議に提出された「資料1-1」の「地域におけるかかりつけ医機能の充実強化に向けた協議のイメージ」で、5つの機能が「◎・○・×」と星取り表的に「例示」された。5つの機能そのものに異論はないが、今後も5つの機能は「例示」にとどめ、「かかりつけ医機能」を有する医療機関を、5つの機能全てを実施できる(フルスペックの)医療機関に限定すべきではない。特に「休日・夜間の対応」を「単独で提供できる」一人医師診療所はごく限られるので、この「機能を他の医療機関と連携して提供できる」方式を幅広く認めるべき。この点は、現在の「医師の働き方改革」の対象外となっている開業医師の長時間労働・疲弊を予防するためにも重要。
5.かかりつけ医機能に関わる診療報酬-地域包括診療料の拡充を
医療機関が、「継続的な医療を要する患者」に対して書面等で疾患名と治療に関する計画を示し、継続的に診療を行う場合には、何らかの診療報酬の手当が必要だと考え、2014年度に導入された地域包括診療料を拡充するのが合理的・現実的と思う。
ただ施設基準が厳しく、対象疾患も限定されているため、あまり普及していない。包括払いと出来高払いの併用を維持した上で、施設基準と対象疾患を大幅に緩和すべきと思う。地域包括診療料の質の担保としては、施設基準に含まれる「慢性疾患の指導に係る研修を修了した医師」に、日本医師会が実施している「日医かかりつけ医機能研修制度」修了者を含めるべきであり、修了者名簿の公開は不可欠。将来的には、研修制度の内容も強化すべき。
また、医療法改正で「かりつけ医機能」の定義に「疾病の予防のための措置」が含まれたことにより、今後はかかりつけ医が予防・健康増進に積極的に取り組むようになると思うが、その費用は診療報酬だけでなく、公費でも補填すべきと考え、その線引きは重要な論点になる。
しかし、それを大幅に拡大すること、ましてや国民全体(または大半)に広げて、包括報酬制(または人頭払いの)「かかりつけ医の制度化」を図ることは、外来診療時の自己負担がある限り、不可能だと判断。なぜなら、医師から「継続的な医療を要する」と判断されず、不定期にしか医療機関を受診しない青壮年者の大半は、医療機関を受診しない月にも、いわば「健康管理料」として相当額(3割)の自己負担を支払うことに同意するはずがないからだ。
私は、かかりつけ医を(必要に応じて複数)持つこと・選ぶことは国民・患者の「権利」ではあるが、「義務」ではないし、義務にすべきでもないと思っている。現実にも、固定したかかりつけ医を持つことを希望する国民・患者は、少なくとも現時点では、地域包括診療料の対象になりうる高齢患者・慢性疾患患者や(一部の)小児疾患患者(の保護者)等、かなり限られていると判断している。医療法改正後そのような患者が増えるのは確実だが、国民の大多数にはならないと思う。
6.患者の大病院志向の是正-「かかりつけ医機能の強化」以外の改革も有効
「かかりつけ医機能の強化」のための改革は、コロナ禍前から、患者の大病院志向を是正し、大病院勤務医の負担を軽減するためにも提案されていた。
最も、有名なのは、2013年の「社会保障制度改革国民会議報告書」が、今後「構築される新しい医療提供体制は、利用者である患者が大病院、重装備病院への選好を今の形で続けたままでは機能しない」として、「フリーアクセスの基本は守りつつ、(中略)医療機関間の適切な役割分担を図るため、『緩やかなゲートキーパー機能』の導入は必要となる」と提案したこと。具体的には、報告書は、「大病院の外来は紹介患者を中心とし、一般的な外来診療は『かかりつけ医』に相談することを基本とするシステムの普及、定着は必須」として、「紹介状のない患者の一定病床数以上の病院の外来受診について、(中略)一定の定額自己負担を求めるような仕組みを検討すべきである」と提案した。
(紹介状ない大病院受診に定額負担を課す)「制限されたフリーアクセス」が、現実には「緩やかなゲートキーパー機能」を果たし、患者の大病院志向は徐々に抑制され、大病院勤務医の外来負担も軽減されつつあったが、コロナ禍でそれが一時頓挫していると考えている。
ただ、2010年代以降、地域医療構想と診療報酬改定による経済的誘導、各地域の医療機関の「自助・互助」により、多くの地域で「医療機関間の役割分担」、特に大病院と地域密着型の中小病院・診療所との機能分化と連携が相当進み、この面からも患者の大病院志向は是正されていると思う。さらに今後は、外来機能報告制度による「紹介受診重点医療機関」(他医療機関からの紹介患者への外来を基本とする一般病床200床以上の病院。都道府県が決定し、2022年度内に公表予定)の明確化、勤務医の働き方改革(2024年4月実施。実質的には大病院勤務医の勤務時間制限)によっても、患者の大病院志向がさらに是正されるのは確実。
以上の動きおよび医療法改正による「かかりつけ医機能の強化」策により、長年、日本医療の課題だった患者の大病院志向の是正は今後着実に進むと予想できる。
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