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 イギリスのGP(General Practitioner)で、現在は福島県立医科大学の地域・家庭医療学講座で助手として活躍されている、Dr.Maham Stanyonとイギリスの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して対談していただきました。前編の「感染状況」に続き、後編は「ロックダウン解除、コロナとの共生」をテーマにお話しいただきます(対談は、2021年9月27日にオンラインで実施。対談の動画は、文末に掲載しています)。

佐々江:Dr.Stanyon、これで、私たちの話の第2部につながりますが、少し的をフォーカスしてお話を進めたいと思っています。英国はおそらく「自由な移動」を認め、公的な場所でのフェイスマスクの着用義務化の廃止を決めた最初の国の一つだと思います。お聞きしたいのですが、感染者の絶対数は英国では依然として比較的多いのですが、このように自由な移動を認める決断をしたのはなぜでしょうか。

Dr.Stanyon:こうした決断は決して容易にできることではありません。英国政府は、今年初めからロックダウンを解除するための準備を始めたわけですが、まず確認しておきたいことは英国のロックダウンは、日本の緊急事態宣言とは異なるという背景です。英国では国全体が非常に厳しいロックダウンを行っており、会う人や会う場所を制限していました。決められた数以上の人と屋内で会うことはできず、映画館は閉鎖され、レストランで食事をすることもできませんでした。「非常に厳しいロックダウン」で、たくさんの人が家で仕事を余儀なくされていました。

 そして3月、政府はコロナ感染の「予防措置を段階的に縮小」することを始めました。これには4つの段階があり、初期段階は、比較的小さな変化で始まり、その後、外と内の両方で交流できる人の数を少しずつ増やしていきました。今年の7月19日には最終段階で、やっと多くの人が集まることも解禁され、マスクを着用の規制もなくなり、社会的な距離を取る必要性も減りました。以前は近くにいる人から2メートル離れなければなりませんでしたが、今はその必要がありません。

 もちろん、こうした変化に不安を感じる人もいましたが、同時に多くの人が「長期にわたるロックダウンによる疲れ」を感じていたこともまた事実でした。例えば、パンデミックの影響でメンタルヘルスの問題が多く発生していました。もちろん経済的な影響もあります。英国政府は常に、国民のワクチン接種が十分に進むまでコロナ感染の予防措置を縮小することは考えないと主張していました。「ワクチン接種プログラムの成功」が、コロナ感染数を減らし、制限を緩和するための実に大きな要因となっています。

 また、縮小のタイミングも非常に重要です。というのも、このまま対策を継続し、「冬場の英国医療の負担が増える時期に感染対策を縮小するべきか」との懸念があったからです。つまりコロナ感染予防策を夏休みの早い時期に縮小することで、冬に想定されるピークの前にピークを予測しようとしたのです。つまり「ピーク期間を冬より前に移動」させようとしたわけです。

 ロックダウン解除後すぐに最初の増加が見られたのが、今年の7月の3回目のピークでした。不思議なことに、社会的な距離を置いたり、マスクを着用したりすることが減ったにもかかわらず、その後、感染者数は自然に減り始めました。これには、いくつか説明できる原因はあります。ちょうど学校が休みに入った時期だったため、多くの人が休暇を取っていました。多くの子供たちが学校での定期検査をしなかった、そして多くの人が勤務中の検査を受けないという状況でした。そのため感染者数が当初は減少したのかもしれません。その後、増加に転じ、今回の第4波となりました。現在は第4波が終わりに近づいており、患者数は減少しています。死亡率、つまり陽性反応が出て死亡する人の数は、今のところ減少しています。

Dr.Stanyon

佐々江:これは本当に面白いですね。ボリス・ジョンソン首相は、この段階的ロックダウン解除について、「全ての国家においての決定は、慎重でありながら不可逆的であることを明示し、日付ではなくデータに基づいて行われる」と述べています。この「データ」とは何を意味するのでしょうか。感染数を見ているのでしょうか。ご説明いただけますか。

Dr.Stanyon:英国での決定は、可能な限り「エビデンスに基づいて」行われていると思います。常に、さまざまな分野の専門家と一緒に取り組んできました。医療関係者やChief Medical Officer だけでなく、ウイルス学や公衆衛生の専門家も参加して、疫学や感染者数、感染の広がりなどを検討しています。どのように広がっているのか、誰が感染しているのか、どのようにして感染を伝播しているのかを適宜確認することが重要です。

 英国では、「検査と追跡のシステム」が非常に強固に構築されています。非常に優れたアプリが用意されており、検査で陽性となった人と接触した場合、患者に自動通知されます。接触したということは、感染した人の2メートル以内に15分間いたということで、「ピン」されます。ピンされた患者はその後、携帯電話に「感染した可能性があるので隔離を開始してください」という警告のテキストメッセージが届きます。通常は、アプリや「NHSテスト&トレース・システム」によって隔離するように指示されれば、「隔離する義務」があります。隔離しなければ罰金が発生します。

 英国では、コロナ感染の拡散状況を容易に把握することができるため、政策に反映させるためのデータを容易に得ることができるのです。「NHSテスト&トレース・システム」は、政府がリアルタイムで状況を把握する上で、非常に重要な役割を果たしていると思います。特に医療など国民に貴重な資源に多大な影響を与えるため、こうして集められたデータの活用は大きな決断を下す際に非常に重要です。

佐々江:疫学データを見ているというのは、感染数や病床数や流行している変異株などのリアルタイムでのデータのことを指していると思います。そういった要素を全て加味して、ロックダウン解除の次の段階に進むかどうかを決めるわけですね。日本ではどうやってそのようなリアルタイムのデータを得ることができるのか分かりませんが、日本には各地域に感染者数を追跡するシステムはあります。これは、緊急事態宣言や各種の制限の解除に向けての指針になり得ると思います。日本でも年末には、地域別で段階的解除が導入されるかもしれませんね。

 お聞きしたいことがあるのですが、「検査」において、イギリスではロックダウンから脱却のため、学校や職場などで「無症状患者のスクリーニング」を行っていますか。何か厳格なプロトコルが定められているのでしょうか。

Dr.Stanyon:特に職場や学校では、症状がなくても定期的に抗原定性検査(lateral flow test)を定期的に行うことを義務化しています。つまり、健康な人が定期的に検査を受けているということです。無症状の患者でも、抗原定性検査の精度は高いことは分かっています。こうした検査は英国では既に広く普及しており、検査結果は非常に迅速に得られます。企業はもちろん、特に第一線で働く医療従事者にも活用されています。地域での感染を減らすためには、特に無症状の人や感染を拡大させる可能性のある人を対象に検査を拡大することが非常に重要です。従って、抗原定性検査は、学校や職場での生活を維持するためだけでなく、症状のない病気の人を特定するためにも有用といえます。

 英国ではPCR検査も無料で利用できます。症状が出たときは患者が、PCR検査をリクエストすることができます。PCR検査を依頼するには、さまざまな方法がありますが、オンラインで患者が全国どこでも直接PCR検査を依頼できるシステムがあり、非常に簡易的に素早く結果を得ることができます。

 このように、症状がない場合と症状がある場合の両方の状況に対応した検査が全国で可能なため、患者は検査に簡単にアクセスでき、結果もすぐに得られます。つまり、これらの要素によって、リアルタイムでの対応が可能となり、病気の人を素早く特定し、隔離することができるのです。こうした検査システムは、英国のロックダウン解除にも大いに役立ったと思います。

佐々江:なるほど、抗原定性検査の拡充などとても良いアイディアですね。日本では、抗原検査は主に医療従事者を通して行われていますが、イギリスでは、企業や学校が独自の検査システムを持っているようですね。こうしたシステム作りがロックダウン解除の要素にもなるのですね。

 先生の同僚や友人から聞いたかどうかは分かりませんが、イギリスの人々は、ロックダウン解除についてどう感じているのでしょうか。興奮もある一方で、不安もあるのではないでしょうか。

Dr.Stanyon:英国の人々に話を聞くと、いつ状況が再度悪化するか分からないという不安感は当然あるようです。急に事態が悪化して、また戻ってきてロックダウンされてしまうかもしれません。しかし、佐々江先生がおっしゃったように、同時に国民はとても喜んでいます。友人や家族との再会を喜ぶ声が多く聞かれますし、特に多くの国民がワクチンを接種したことで、人々のストレスは軽減されています。人々はストレスを感じなくなり、職場に戻り始めています。もちろん、ワクチンを接種することで、死亡率が下がり、重度化する可能性が低くなったという安心感もあります。

 しかしながら、感染のリスクが消えたわけではありません。一般の人々の多くは、ちょっとした注意が必要であることを理解していると思いますし、人々は不安を感じていると思います。特に「マスクの使用」は費用対効果が高く、労力のかからない介入方法です。集団レベルで感染症を減らし、予防することができます。また、人々が実際に感染を防ごうとしていることを目に見える形で示すことができます。心理的には、人々がマスクを外すということは、かなり大きな一歩だと思います。

佐々江:今の日本では、マスクをしていない人を見ることはほとんど考えられないことです。ただ日本では体調が悪いときにマスクをすることに慣れているという利点があったと思います。そして、それが日本である程度は感染予防に役に立っていたのだと思います。しかしイギリス人にとってはマスクをすることは全く不自然だったことは忘れてはならないと思います。

Dr.Stanyon:英国では、マスクを着けるカルチャーは全くありませんでした。パンデミックが始まった頃、特にアジア系の患者はマスクをする文化に慣れていましたが、残念ながらマスクをすることで差別の標的にされてしまいました。マスクは、人々が本当に不快に感じるシンボルとなってしまったのですね。

佐々江:そうマスクは効果があるんですよね!というのも、去年は世界中でインフルエンザがほとんど発生していないわけで、マスクが実際に効果あることを証明したわけですからね。  これは本当に、「疫学的に非常に興味深い発見」だったと思います。今後、マスクの見方が変わることは間違いないでしょう。

Dr.Stanyon:マスクが診療所で着けるもの、手術室で着けるものから、ファッション業界のようなものになっていくのを目の当たりにしましたね。

佐々江:そうですね。

Dr.Stanyon:本当に予想外でした!

佐々江:最後に、英国の経験から日本が学べることは何でしょうか。コロナとの共存や緊急事態宣言からの脱却などについて、先生のイギリスの経験から日本が学べることは何だと思いますか。

佐々江氏

Dr.Stanyon: 3つあると思います。予防対策を縮小するという次の段階に進むための戦略の一環として、重要な要素は、これまで触れてきた2つの主要テーマです。安全な方法でもう少し物事を進めるためには、国民のワクチン接種率を高める必要があります。特に死亡率を下げることや、病院の負担が大きくならないように、重症患者の数を減らすことも重要です。

 また、無症状であってもコロナを保有している人を「検査・隔離する良いシステム」が必要ですし、症状のある人には迅速に検査を行い、自己隔離できるようにしなければなりません。この2つの要素、しっかりとした「検査・追跡システム」で感染患者を特定し、ワクチン接種を増やすことが非常に重要だと思います。

 先を見越した計画や考え方も大切です。英国では、コロナ感染から回復した人でも、完全には回復しない可能性があることが分かっています。問題となっているコロナ後遺症(long COVID) があることも分かっていますし、費用もかかります。また、多臓器に影響を及ぼすため、患者が衰弱してしまうこともあります。このような患者さんには、総合的なケア、患者さんを中心としたケアが必要であり、そのケアは地域で行われる必要があると考えています。ですから、「強力なプライマリケアシステム」を構築して、入院するほどではない症状に悩まされている患者さんを自宅で管理できるようにするだけでなく、コロナ後遺症の患者さんをどのように管理していくかを考える必要があります。

佐々江:本当にありがとうございました。素晴らしいディスカッション、楽しませていただき、ありがとうございました。

Dr.Stanyon:本当に楽しかったです。またやりたいですね

佐々江:そうですね、時間を見つけて別の話題を取り上げることができると思いますし、視聴者の皆さんにも同意していただけると思います。それではどうもありがとうございました、Dr.Stanyon。

Dr.Stanyon:ありがとうございます。

佐々江龍一郎

NTT東日本関東病院国際診療科部長、国際室室長、総合診療医

東京医療保健大学臨床教授

1981年4月生まれ。2005年英国ノッティンガム大学医学部卒業。英国の家庭医診療専門医の資格を取得し、キングスミル病院、ピルグリム病院、テームズミードヘルスセンター、WEST4家庭医療クリニックなど、英国内の医療機関で約12年間家庭医として活躍。2016年に日本の医師免許を取得し、帰国。2017年からNTT東日本関東病院総合診療科、国際診療部に勤務。

新型コロナウイルス特設ページ COVID-19

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