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【伊藤香・帝京大学救急医学講師に聞く】(2022年2月14日にインタビュー)
Vol.1 「生命の危機が迫る患者・家族との会話のスキル」伝授したい
Vol.2 「人生の最終段階」日米のギャップに直面
Vol.3 コロナ禍でこそ「緊急ACP」実践の意義

――日本に帰国されて臨床に従事する中で、「Goals-of-care Discussion」について日米の差はなかったのでしょうか。

 私が1年間の外科集中治療のフェローシップを終えて、外科集中治療専門医資格を取得して帰国したのは2016年10月です。

オンラインで取材に応じる伊藤氏

 アメリカでは事前指示書を所有しているのが全国民の約40%、高齢になればその率はもっと高くなるというデータがあります。その上、医療保険制度の違いもあるのかもしれませんが、アメリカでは、人生の最終段階に差し掛かっている方が、救急車で心肺蘇生をされながら搬送されてくるケースはほとんどありませんでした。仮に搬送されてきても、侵襲的な治療ではなく、緩和的な治療のみを選択するような状況でした。

 ところが、帰国して日本で働き始めてすぐに分かったというか、驚きだったのは、そもそも事前指示書やACP(アドバンス・ケア・プランニング)などがとにかく普及していないことです。そのこともあって、「アメリカでは絶対、運ばれてこないだろう」と思える状態の患者さんも、たくさん救急搬送されてくる現実があったのです。

 日本の現状を不思議に思って調べたところ、2018年3月の厚生労働省の「人生の最終段階における医療に関する意識調査」では、「人生の最終段階について、家族等と詳しく話し合ったことがある」と回答したのは2.7%にすぎませんでした(「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」調査で、一般国民では2.7%。厚労省のホームページ)。私が臨床現場で感じたギャップの通りでした。

 一方で日本緩和医療学会にも問い合わせたところ、理事長の木澤義之先生(神戸大学医学部先端緩和医療学分野特命教授)主導で、厚労省委託事業「人生の最終段階における医療・ケア体制整備事業・本人の意向を尊重した意思決定のための研修会 相談員研修会」(詳細は神戸大学のホームページ)などでACPの普及に取り組んでいる現状などもあり、私もこの領域により関心を持つようになったのです。

――ACPがいまだ普及していない中、救急医療など時間的余裕のない場面での「緊急ACP」の普及は可能なのでしょうか。

 事前指示書についてはいろいろな研究があり、指示書1枚があっても、実際にはその通りにならないことが多く、それだけでは意味がないとも言われています。だからこそ事前指示書に至る家族内での話し合い、そのプロセスや内容を代理意思決定者と共有していく必要性が指摘され、ACPという考え方に至っているのだと思います。

 もっとも、病状によっても患者さん本人の考え方や意思は変化し得るため、何度も繰り返し、ACPを重ね、事前指示書を見直していくことも大切です。それでもなお、「いざ」という時、一気に状態が悪くなって集中治療室での治療を受けることになった場合、病状を説明しもう一度、患者さん側の意思を確認するプロセスは大切であり、ACPと「緊急ACP」は両輪で普及させていくことが必要でしょう。

――このコロナ禍では、高齢者の救急搬送も多かったと思います。

 救命救急センターに搬送されてくる高齢の患者さんは、事前指示書やACPなどをされていない人が多いのではないかという印象を持っています。

 パンデミックが始まった後、日本老年医学会は2020年8月、「高齢者が最善の医療およびケアを受けるための日本老年医学会からの提言― ACP 実施のタイミングを考える―」を公表しています。高齢者の医療・ケアに関わる専門職などを対象としたもので、「バイタルトーク日本版」の考え方も引用していただいています。データ的には分からないですが、現場ではなるべく行うようになったとはお聞きしています。

 救急の現場は、救命至上主義。ACPなどがなければ、侵襲的な治療法も含め、どんどん治療する方向に進んでしまうパターンが多い。その結果、最終的に患者さんの意向に沿わないような治療になってしまう可能性もあります。患者さんは根治的な治療を目指していらっしゃるのか、それとも症状緩和を期待しているのか、それを見極める意味でも「緊急ACP」が必要になってくると思います。

 ただ、それだけでなく、緩和ケアを、さまざまな現場で幅広くできるようにする体制を整えないと、現状は変わらない気がしています。アメリカでは、在宅医療、あるいは救急医療の現場で、疾患を問わず、緩和ケアができる体制が整っています。医療保険制度の問題に加えて、そうしたバックグラウンドがあるからこそ、不用意に救急搬送されるケースが少ないのだと思います。

――集中治療の現場で「侵襲的な治療」を提供するか、差し控えるかの選択ではなく、緩和ケアという別の選択肢を用意する。超高齢社会の中で、医療のあり方自体も考えていく必要があるということですね。

 その通りだと思います。ちょうど1年前の2021年2月、木澤先生らが編集された『救急・集中治療領域における緩和ケア』(医学書院)が発行されています。医療界全体で、緩和ケアの領域に関心を持たれている方は増えていると感じています。日本でも、集中治療室にいる患者さんについては、疾患を問わず、緩和ケアが医療保険下で提供できる制度がまず必要ではないでしょうか。

【伊藤香・帝京大学救急医学講師に聞く】(2022年2月14日にインタビュー)
Vol.1 「生命の危機が迫る患者・家族との会話のスキル」伝授したい
Vol.2 「人生の最終段階」日米のギャップに直面
Vol.3 コロナ禍でこそ「緊急ACP」実践の意義

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