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by Sam Levin

1万2000件以上のがんのゲノムに潜む数億もの変異を分析する研究により、細胞ががん化する際の遺伝子変異を見つけるアルゴリズムの開発に成功したとの論文が、学術雑誌のScienceに掲載されました。これにより、がんが発生する原因についての理解が進んだり、医師が患者1人1人に最適ながん治療を選択することが可能になったりすると期待されています。

Substitution mutational signatures in whole-genome–sequenced cancers in the UK population
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abl9283

Largest study of whole genome sequencing data reveals new clues to causes of cancer | University of Cambridge
https://www.cam.ac.uk/research/news/largest-study-of-whole-genome-sequencing-data-reveals-new-clues-to-causes-of-cancer

Trove of tumour genomes offers clues to cancer origins
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01095-2

一口に「がん」と言っても、その特長や発生メカニズムは千差万別です。そのため、がん研究者はDNAの損傷とその修復の痕跡からゲノムの変異の変遷をたどる「変異シグネチャー」に注目しています。

この変異シグネチャーの重要性について、ケンブリッジ大学のSerena Nik-Zainal教授は「変異シグネチャーは、さながら犯行現場から採取された指紋のように、がんの犯人を特定するのに役立ちます。また、変異シグネチャーの中には特定の薬のターゲットになるような、がんの『アキレスけん』とも言えるものもあるので、がんの診断や治療をする上では重要です」と話しました。


変異シグネチャーを分析すれば、紫外線による遺伝子の損傷や喫煙、あるいは細胞内部にもともとあった異常など、一体なぜがんが発生したのかの手がかりが得られます。しかし、がん細胞が持つ膨大な数の変異のうち、細胞のがん化に直接関係があるものはほんの一握りしかありません。

そこでNik-Zainal教授らの研究チームは、イギリスの大規模ながん患者ゲノム解析プロジェクトである100000 Genomes Projectで収集されたがんのゲノム1万2222件のデータを使用して、ゲノム上に存在する無数の変異を分析できるアルゴリズムである「Signature Fit Multi-Step(FitMS)」を開発しました。

研究チームが、国際がんゲノムコンソーシアムなどで収集された合計6000件以上のがんのゲノムをFitMSで検証したところ、特定の塩基が書き換えられている1塩基置換(Single Base Substitution:SBS)シグネチャーが82個、2連続で塩基が書き換えられた2塩基置換(Doublet Base Substitution:DBS)シグネチャーが27個特定されました。さらに、これらを既知の変異シグネチャーと照らし合わせたところ、これまで同定されていなかったSBSシグネチャー40個とDBSシグネチャー18個が発見されたとのことです。


論文の共著者であるケンブリッジ大学のアンドレア・デガスペリ氏は、「さらなる変異シグネチャーを見つけて、まだがんの原因だとは判明していない未知のシグネチャーの起源を追跡できるようになりたいと思います。今回の研究はSBSやDBSが対象でしたが、DNA配列はもっと大きな単位で書き換えられることもあるからです。そして、最終的には患者1人1人にあったがん治療につなげられたらと思います。がん発生のメカニズムが分かれば、どんな治療法や薬が効果的なのかも分かるかもしれません」と話しました。

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