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宇井睦人(著)『緩和ケア ポケットマニュアル 改訂2版』(南山堂)より転載
疾患の経過(illness trajectory)
- 緩和ケアの考え方は、多くの診療現場で目にするプロブレムを1つ1つ解決していく「問題解決型アプローチ」とは異なり、目標設定を先にしてそのために何が大切かを考える「目的志向型アプローチ」のスタイルを取ることが多く、初学者はこの違いにとまどいやすい(前章参照※)。患者・家族に残されている時間が限られている場合は「終わり(死)から逆算して考える」ことも時に重要である。
- 疾患の経過(“軌跡”もしくは“軌道”と呼ばれることもある)を表した図が「illness trajectory(図I-3)」である。もちろん急な塞栓などにより「予測できない突然死」も少なからず存在するが、経過のイメージをおおまかに掴むなど情報共有のためにもとても有用な図であり、必ず頭に入れておきたい。

- illness trajectoryと予後予測を組み合わせることによって、患者が「現在どの地点にいて、これからどのようなことが起こり得るか」の目処が立つようになる。すると患者や家族の意向をかなえるために「いま、すべきこと」が自ずと決まってくる。たとえば「がん患者が旅行をしたいと希望している」のであれば、illness trajectory curveが下り坂になる前の時期に提案すべきであろう。
- 図I-3(薄い青線部分)はがん患者の疾患の経過を図示したものである。「多くのがん患者は、亡くなる1・2カ月前~数週で急速に身体機能が低下する(衰弱する)」ことは、一般の方には驚きをもって受け止められることが多く、あまり知られていない。もちろん甲状腺がん、乳がん、前立腺がんなどは例外で長い経過を辿るケースもあるが、多くのがん患者に当てはまる経過であり、本人、とくに家族への説明時に役に立つ。
- 図I-3(濃い青線部分)は心不全や呼吸不全などの臓器不全における疾患の経過である。間欠的な急性増悪(入院)を伴い、数年または数カ月の経過において段階的な機能低下をきたす。最期の1年は症状の悪化やそれによる入院が、より頻回となることが多い。
- 図Ⅰ-3(薄グレー線部分)は認知症や老衰の経過である。増悪や回復の山が激しくなく、数年をかけて緩徐な機能低下をきたす。心不全などを合併すれば、やはりそれによる入院は頻回となる。
Point 「認知症に悪性腫瘍を合併した患者が心不全を発症した」などと、2~3つの予後予測モデルの要素を併せもつ高齢者も実臨床では少なくない。ポイントは「がんによるADL低下は急であり、原則そのまま死に向かっていく」ことと、「臓器障害における疾患は適切な治療によって回復し得る可能性が大きく、予後予測がむずかしい」ことである。
Column
医療者が予後を予測することと、それを伝えることは別問題
(つづく)
※本書p.2プロローグ「緩和医療の現場で心がけていること」参照。本連載では割愛します。
◆m3.com臨床ダイジェスト“学べる臨床”で次にお届けするのは、2022年4月に刊行された『緩和ケア ポケットマニュアル 改訂2版』(宇井睦人・著、南山堂)です。注目を集めた初版から3年、その間に緩和ケアに使われる薬の種類は豊富になり、「非がんの緩和ケア」という言葉もよく耳にするようになりました。withコロナ時代の緩和ケアに新たな視点を得るきっかけとして、本書の一部をご紹介します。お楽しみに。

<オススメ書籍・南山堂>
緩和ケア ポケットマニュアル 改訂2版
宇井 睦人(著)
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