[ad_1]

 みなさんこんにちは、米国心臓外科医の北原です。この連載では、海外で働く留学医師にインタビューをしています。今回は、米国の緩和ケアについて、コロンビア大学緩和医療科の中川俊一先生に話を聞いてみました。

フェローとして渡米後のまさか!
外科医なのに手術ができない

北原:留学を志したきっかけを教えてください。どうして米国で緩和ケアをやろうと思ったのですか?

中川:僕の経歴はすごく変わっていて、日本で耳鼻咽喉科を2~3年やった後、肝移植をやろうと思って外科に専門を変えたんですね。肝移植のトレーニングを受けたいと渡米して、フェローとしてクリーブランドクリニックに来たところ「米国では手術できないよ」と言われまして。

北原:どうしてですか?

中川:母からの垂直感染で、僕はB型肝炎ウイルスのキャリアなんです。手術を介して患者に移してしまうリスクがあるということで、CDCが手術をしてはいけないという通達を出しているんです。僕は知らなかったので、さあこれから手術をどんどんやるぞというときにできないと言われ、かなり落ち込みました。病棟で術後管理などをしながら、今後どうするかを考えました。日本に帰って外科医をやるのか、米国で違うことをするかです。もう米国に来ていましたし、感染させるリスクがあると知って外科医を続けることにも疑問がありました。外科はやめて内科のレジデンシーをやることにしましたが、当時卒後10年ぐらいでしたし、つらかったですね。

北原:聞いたことないような話ですね。

中川:僕もそれまで全く知りませんでした。

北原:内科レジデンシーのマッチングはどうだったんですか?

中川:なんとかなるだろうという甘い気持ちでアプライしたのですが、全然インタビューが来なくて。なんとかコネを使ってインタビューにこぎつけましたが、それも駄目で。当時働いていたクリーブランドクリニックに移植を勉強しにきていた外科の先生がいて、その先生がクリーブランドのサテライト病院の内科レジデンシーのプログラムディレクターと仲が良くて、その先生に拾ってもらって、首の皮一枚繋がったような感じです。運がよかったです。

北原:内科レジデンシーを終えてから、緩和ケアを専門に選んだんですよね。どうしてですか?

中川:そのときはまだ日本に帰るつもりでいましたので、どうせなら日本よりも米国のほうが進んでいる専門科を選ぼうと考えて、マウントサイナイ老年内科で2年間フェローをやることにしました。マウントサイナイの老年内科と緩和ケアは別の部署なんですが、非常に近いところにありましたので、ローテーションの一環として緩和ケアを回ったところ、目から鱗でした。アテンディングが患者・家族と話をして、意思決定を支援していく様子がものすごくかっこよくて、外科医のときに肝移植をする医師を見て感銘を受けたときと同じ衝撃を受けました。

北原:最初は日本に帰るつもりだったんですね。

中川:そのつもりだったのですが、せっかくなのでアテンディングとしての経験も積もうと思い、7年前に現在のコロンビア大学のポジションを得て、それ以来ずっとこの仕事をしています。

コミュニケーションはスキル
ネイティブではないからこそできること

北原:先生は米国に15年いますけど、15年いたとしても英語がネイティブレベルになることってないと思うんです。でも先生の専門は緩和ケアだから、コミュニケーションのプロとして、患者・家族と濃密な話をしなくてはならない。その部分での苦労があると思います。語学のレベルを上げることももちろん大事なのだと思いますが、ネイティブでも、ネイティブでなくても、コミュニケーションにおいて大事な要素があるなら、教えてください。

中川:すごくいい質問ですね。コミュニケーションというのはスキルなんです。手術と同じです。切ったり縫ったりする代わりに、僕らはあるフレーズを使ったり、使わないで沈黙を保ったりします。すべてはスキルで、練習で上達するものなんです。英語については、日本語訛りなのはどうしようもないです。クリーブランドにいたときはよかったのですが、ニューヨークに来たら僕の英語がまったく通じなくて(笑)。チューターをつけて、2年ぐらいかけて発音はかなり矯正しました。緩和ケアはすごくやりたかったことなんですが、専門にするときはかなり悩みました。例えば仮に、日本で自分が死にそうになっているときに、米国人の医師に拙い日本語で「あなた、は、死に、ます」と言われたら、勘弁してよ、と思いますよね?

北原:たしかに。

中川:そう思うと、逆の立場で、はたして自分が日本語訛りの英語でそういった細かいニュアンスを伝えられるのか、自分がやっていいんだろうかとは思いました。フェローシップのときに心がけたのは、とにかく「アテンディングが言っていることは正解」なので、それを一言一句、正確に書き留めて、ニュアンスがわからないから全部丸暗記してトレースしました。ネイティブだと英語ができるから、なんとなくで話してしまう。でもアテンディングが言っているフレーズにはちゃんといろんなスキルが散りばめられてるんですよね。なぜ別の言葉ではなく、この言葉を使うのか、ちゃんと意味がある。明日難しい会話をしなくてはならないというときには、事前に言いたいことを書き出して、アテンディングに「こう言おうと思う」と相談しました。アテンディングも「こうしたほうがいい」とアドバイスをくれて臨むのですが、大体うまくいきませんでした。そういうときは、後でどこがよくなかったのか具体的に指摘してもらったり、自分で考えたりしました。それを1年間やったら、大体できるようになりました。僕がアテンディングになってから、僕と同じように準備をしてくるフェローはあまりいないですね。でも、スキルとしてアプローチしたほうが絶対に上手くなります。

北原:なるほど。たしかにコミュニケーションもスキルなんですね。

中川:コロンビア大学にいる医師はエリート中のエリートです。そんなエリートたちが上手く話ができないときに、僕みたいな日本語訛りの英語で喋る人間にどうしたらよいか聞いてくる、っていうのは面白いなあと思います。

北原:Twitterでも「こんなときにはこう言う」というように、医療者のコミュニケーションスキルについてを発信されてますよね(中川先生のTwitter:https://twitter.com/snakagawa_md)。先生の経験から導き出した答えを、スキルとして提示してくれているわけですね。

中川:そうですね。フェローやレジデントにその日教えたことを、その本人に言うだけじゃなくて、Tweetして公開すれば、もっとたくさんの人を教育できると思ったんです。そしたら、結構反応が良いんですよ。

北原:面白いですね。ぜひまとめていってほしいです。そしたら僕、YouTubeで紹介しますんで(笑)。次回は日米の緩和ケアの違いについて教えてください。

 

 

北原大翔

シカゴ大学心臓外科医/YouTuber

1983年東京生まれ。2008年慶應義塾大学医学部卒業。

慶應義塾大学医学部外科学心臓血管外科に入局、その後同大学、東京大学、旭川医科大学で心臓血管外科医として研修を行い、2016年9月渡米。

チームWADA【海外医者系YouTuber】

 

 

 



 



[ad_2]

Source link

コメントを残す