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 7月16日、英国に生まれフランスで活躍した女優ジェーン・バーキンが永眠しました。享年76。報道によりますと、自宅でひっそりと亡くなっているところを訪問した介護者により発見され、死因は自然死(Mort Naturel)と。2021年に軽度の脳卒中を患って以来、ご自宅で静養中でした。ヒッピー世代のアイコン女優として、ロシア系フランス人歌手セルジュ・ゲンズブールとのシャルロットを真ん中とする、娘3人を出産した母でもありました。この3人の中の長女、最初の夫(英国人作曲家、代表作は007シリーズ)との間に生まれたケイト・バリーは思春期から麻薬中毒治療歴があり、2013年冬、自宅のアパルトマン4階(日本式の5階)から中庭に転落死。それ以来、母親としての心痛からから立ち直ることはできなかったのではとも言われています。恋多き女として生きた自分の半生を顧みて(ケイトが生まれた年に離婚、翌年にはセルジュ・ゲンズブールと事実婚)、愛娘の死に思うところがあったのかもしれません。

 今回のジェーン・バーキンのように自宅で一人で亡くなっているところを第三者に発見された場合、国によっては警察による検死解剖を必要とする可能性もあるのではと思いますが、長女ケイトの時にも、転落死が事故なのかそれ以外(自死)なのかはあえて執拗には追求しないフランスらしい報道でした。

 この「自然死」という言葉は、フランスの死亡診断書にはよく使われる死因の一つです。他の診断名がない時に、例えば、超後期高齢者が特に診断名もなく日本語で言うところのいわゆる老衰のような状態で亡くなる時にも、この「自然死」が死亡診断書に記入されます。無駄な警察案件を発生させないためのある意味合理的な考え方だと思えます。

 総じて、フランス人の死生観には、このような「寛容さ」があるように思えます。死の恐怖は当然人間であれば誰しもあるのでしょうが、日本人よりも「死に行く人」に対して、優しく「そっとしておいてあげる」とでも言いましょうか。理由を聞いたり無理やり引き留めたりせず、個人を尊重し「その時が来たのね」と見送ってあげる、と表現して良いのではと思える態度を取ります。

セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンの家にて(筆者撮影)

 

フランスでは安楽死の法改正の議論を予定

 2020年からのコロナ禍期間中に、義理の母を含め筆者の周りで3人が入院数週間で天国に旅立ちました。3人とも高齢者でそれなりの疾患もお持ちでしたので、コロナでと言うよりはその疾患でお亡くなりになった方です。が、ひょっとすると、日本だったら、まだまだ治療を続けることはできたのかもしれません。もちろん、フランスでは、「年齢だけ」によって治療を打ち切ったり、人工透析を開始しない(イギリスやアメリカであったのかどうかは存じませんが、時に耳にする65歳以上CKD患者の人工透析非導入)ことはありません。

 ただ、年齢以外にも、それは例えば全身症状、予後のよくない重篤な疾患、重度の認知症、繰り返される肺炎など、その他の要素が複合的に揃った時、医療職者と家族を含めた合意の形成が日本よりもほんの少し早めの速度で進むように見えるのです。さらに言えば、口から食べられてる間は、できる限り口当たりの良いその人の好きなものを食べさせてあげ、それができなければ、経管栄養はする意味があればするけど、なければ無理やり入れるのは「かわいそう」と思うようです。

 そして、治療が、最期には水分が停止されていく、もちろん苦痛はないようにする。これが多くの人が望む自然な形の様に見えます。

 この8月にフランスでは安楽死の法改正に向けての議論が予定されており、Comité consultatif national d’éthique(CCNE国立倫理諮問委員会)での審議に向けて7月17日、フランス医学界の権威、Académie de médecine医学アカデミーがまとめた最初の意見が公式に発表されました。

 現行の法律(2005年最初にレオネティ法制定、2016年に改定クレイス・レオネティ法)では、(1)本人または本人の意思が確認できない場合には信任者(多くの場合、配偶者や子ら、または当該者にとり最も親しい友人等)による事前指示、(2)回復の見込みのない重篤な疾患で臨死期にある、(3)医学的に必要な全ての治療をしても苦痛が取れない、(4)医師2人を含む多職種チームでのコンセンサスを得た共同決定(ただし、最後の決定は医師)、(5)決定に至ったプロセスの全てをカルテに記載、(6)程度を超えた積極医療の禁止、これらの条件を満たせば、目覚めなくなるまで深い鎮静(ミダゾラム、モルヒネなど)を行うことが認められています。

 しかし、今回の審議ではさらにそれよりもう一歩進んで、回答がないままになっていた「自殺ほう助」を可能とする場合の枠組みを限定する方向に向かうと同時に、これは「安楽死とは異なる」と発表しました。

 同アカデミーとしては、自殺ほう助への枠組み化に向けて、米国オレゴン州のモデルを参照しています。このオレゴン州のモデルでは、 精神疾患・うつ状態・識別能力の喪失・未成年者を除外することを前提条件にした上で、 緩和ケアへのアクセスがあり、 医師による致死性薬品の投与を伴わない上での処方の認可という特徴が挙げられています。特に この最後の点は「患者にとって究極の選択の自由につながり」、その実、「自殺ほう助を許可された人々の40%がこの計画を最後まで遂行していない」ことが指摘されています。

 在宅における条件についても、3人の医療従事者(そのうち患者の担当医師1人と看護師を含む)と、担当医療チーム以外の専門家(例えば精神科医や臨床心理士など)を加えるべきでは、と提言されています。

 この分野ではオランダやスイスに比べて保守的であったフランスですが、国内での法改正を望む声の高まりにマクロン大統領もなんらかの回答を示す意向を述べています。

奥田七峰子(日本医師会総合政策研究機構フランス駐在研究員)

パリ郊外の国際総合病院American Hospital of Paris に医療通訳として勤務(1993-2004年)の後、日本医師会総合政策研究機構フランス駐在研究員として医療制度・政策ニュースの報告を担当。医療通訳、コンサルティング。活動の詳細は、HPにて。

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