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新がん治療法「光免疫療法」開発成功を支えた意外な人物とは

写真:Pixabay

 

 私は、新規のがん治療法である「光免疫療法」を開発し、アメリカのメリーランド州・ベセスダにあるNIH(アメリカ国立衛生研究所)で働く医師である。

 

 私が開発したのは、がん細胞にくっついた後、細胞内に飲み込まれると発光し、そのままがん細胞が生きている間は細胞の中で光り続けるが、がん細胞が死んだ場合には発光を止めるという、「生きているがん細胞だけを選択的に光らせ、治療で死んだら消える」薬剤である。

 

 

 そして、投与の翌日に(抗体ががん細胞にほどよくくっついたタイミングで)近赤外光を1ヶ所につき、ものの5~6分程度照射するという治療法だ。

 

 こうして解説してしまえば実にシンプルで、数行で説明がついてしまい、拍子抜けするほど簡単である。しかし、ここにたどり着くまでに実に30年に及ぶ試行錯誤を繰り返してきた。

 

 米国での臨床治験実施の承認は、2015年の4月にFDA(アメリカ食品医薬品局)から下りた。私たちがマウスにおける光免疫療法の効果を米医学誌に論文として発表したのは2011年だ。このように短期間で研究を進めることができたのは、楽天代表取締役会長兼社長の三木谷浩史さんとの出会いなくしては実現できなかった。

 

 というのは、新しい治療法を臨床に届けるため越えなければならない最も高いハードルが、治験を実施するための資金獲得だったからだ。

 

 当初は、この研究の現実性や有用性、あるいは有効性をなかなか理解してもらえず、当時NIHでは、臨床応用のための予算がなかなか下りず、治験の準備は遅々として進まなかった。

 

 だが、私が光免疫療法の治療技術の特許を取得し、それが2012年に公表された際、いくつかの企業からライセンス契約を結びたいという申し出を受けた。

 

 それぞれの企業と話し合い、またNIHの知財部とも十分に相談した末に、アスピリアン・セラピューティクス社(現・楽天メディカル社の前身/以下アスピリアン社)という、サンディエゴにあった医療ベンチャー企業と排他的ライセンス契約を結んだ。

 

 こうして、私たち研究チームのみならず、アスピリアン社も治験を目指して資金集めをスタートさせたが、その後ほぼ1年間、私が何度プレゼンをしようとも1ドルも支援を得ることができなかった。

 

 米国の事情をもう少し詳しく説明しよう。がんの最新治療というものは、まさに雨後の筍のように次から次へと登場する。そして、モノにならずに(治験を行ってもフェーズ1くらいで)消えていくものも多い。というか、それらがほとんどなのだ。

 

 中には、「あのような治療法に有名な財団が支援しているのか!?」と思われる荒唐無稽な研究が出資を受けているものもある。したがって、我々が開発した治療法も、当初はそのようなものと十把一絡げにされ、懐疑的に捉えられることが多かったようだ。

 

■三木谷浩史さんとの出会い

 

 三木谷浩史さんとは、神戸に住む私の従兄弟である新保哲也の紹介で、2013年の4月に初めてお会いした。

 

 新保は建築家であると同時に、ワッフルケーキで知られる「R.L(エール・エル)」の創業者である(神戸に本社を置き、現在は全国展開している)。

 

 奇遇なことに、新保は三木谷さんが代表取締役会長兼社長を務める楽天株式会社が運営する「楽天市場」の初期の出店者であり、神戸の同郷ということもあって個人的に長いお付き合いがあった。

 

 さらに、神戸を本拠地とするJ1サッカーチームであるヴィッセル神戸のスポンサーでもあったので、同チームの役員をされていた三木谷浩史さんのご尊父・良一さんとも個人的な知己があった。

 

 当時、三木谷さんは良一さんが膵臓がんを患っておられたことから、何かよい治療法はないかと、世界中を飛び回ってがん治療について独自に調べているところだった。

 

 2013年の春、横浜で行われた日本医学放射線学会で私が来日していた折に、三木谷さんの状況を知っていた新保の仲立ちで、三木谷さんを含めて少人数で会食させていただく機会を得た。

 

 私が初めてお会いした会食のときから、すでにがん医療の専門家並みの知識を身につけておられることに驚き、こちらも素人にお話ししているレベルをどんどん上げて一つ一つ丁寧にお答えしていった。

 

 この初回の会食と学会での講演の後、私は臨床治験を進められる可能性があったシンガポール国立がんセンターに飛んで講演と会議を行っていた。シンガポールで滞在していたホテルへ、三木谷さんから「もう一度お話しできないか」という連絡をいただき、アメリカに戻る途中で日本を通過するときに再度会合を持つことにした。

 

 その会合では、三木谷さんのお父様の治療に関係されている医師の方が同席され、詳細に説明を聞いていただく機会を得た。アメリカに帰る前日に、「もう一度お話しできますか」という連絡をいただき、そのときには日本の医療ベンチャーの起業家の方々にも、私の開発した治療法を解説する時間を頂戴できた。

 

 その会議が終わって廊下に出たところで、「なぜ、この治療は臨床治験に進まないんですか?」と三木谷さんから問われた。

 

 私は「公的資金もライセンスしたベンチャーもお金を取れないからです」とお答えすると、「最初の人の治験まで進めるのにいくらくらいかかりますか?」というさらなる問いに、私は「数億円レベルの費用がかかるので、それなりに予算がつかなければなかなか実施できないのです」と正直にお答えした。

 

 すると三木谷さんは「必要なだけ出します。やってみましょうよ!」と、支援をその場で決断してくださったのだ。このやりとりが、治療の実現のスピードアップにつながった。初めてお会いしてから、わずか1週間での英断である。

 

 ただし誤解を生まぬように付け加えておくと、この段階では、三木谷さんは楽天会長としてではなく、個人資産で最初の治験までの財政支援を、ライセンス契約をしていたアスピリアン社にしてくれることになったのである。

 

 後に知ったことであるが、三木谷さんも私の話を主観だけで受け入れたということはないようである。周囲からは「マウスでうまくいったからといって人間には機能しないことが多い」などと釘を刺されたりはしていたようだった。

 

 だが、光免疫療法は従来のがんの治療と違い、薬剤と光は、それ自体ががんを死滅させるものではなく、あくまで物理化学的に「破壊」するツールであるということ、であれば、マウスでも人間でも細胞に違いはないから、反応する作用は同じではないかという見解にたどり着いていたのだという。つまり、先入観にとらわれずにこの治療の可能性をご自身で判断されたのだ。

 

 ここに至るまで、我々の治療法は、散々、有象無象の治療と一緒にされてきた。三木谷さんに、後にこう言ったことがある。「あのとき、よく認めてくださったものだ」と。

 

 すると三木谷さんは「もちろん、治療の内容が理にかなっていたということもあるけれど、あなたの言っていることは、“これはいけるんじゃないかなあ” と腑に落ちるものだった」と言ってくださった。

 

 そのとき私は、自分が信条としている「嘘をついたらサイエンティストは失格ですから」とお答えするしかなかった。

 

 お父様は無念にも、2013年の暮れに逝去された。しかし三木谷さんは「この治療法を、がんで苦しむ方に届けたい」という思いを一層強くされ、「ずっと続けよう」と支援の継続を約束してくださった。

 

 治験の結果で効果を確認するにつれ、さらに支援を増やしてくださり、その後、楽天メディカル社の会長兼最高経営責任者として経営にも携わるようになったのだ。

 

 

 以上、小林久隆氏の新刊『がんを瞬時に破壊する光免疫療法 身体にやさしい新治療が医療を変える』(光文社新書)をもとに再構成しました。人体に無害な近赤外線を照射してがん細胞を消滅させる「光免疫療法」について開発者が語ります。

 

●『がんを瞬時に破壊する光免疫療法』詳細はこちら

 



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