民間救急車というものを、皆さんご存じでしょうか。

 

主人が積極的治療を行なっている病院から、別の緩和ケア病院へ転院する際に、私は利用しました。

 

この存在を知っているのとそうでないのとでは、大きく対応が異なると思いますので、いざという時は、民間救急車の存在を思い出して頂けると良いのではないかと思います。

 

 

民間救急車は、119番通報の消防署が無料で出動して下さっている救急車とは、全く異なるものです。

 

 

●消防署の無料出動の救急車との主な相違点

・民間救急車は有料サービス

・消防署の救急車のように、サイレン・赤色灯を点けた緊急走行が不可能

(すなわち一般車両と同様の交通ルールで走行する)

・119番通報レベルの緊急事態ではなくても利用可能

(転院・リハビリ通院・退院して自宅に帰る際など可能)

 

 

 

緊急走行が不可能、かつ有料ですが、主人と私は、大変有用でした。

 

 

●民間救急車の特筆事項

・運転手と介護者の2名が乗務する移送サービス

・管轄の各市町村の消防署から認定を受けている

・乗務員は患者搬送乗務員基礎講習を受講し、適任者証を交付されている

・車両には、医療機器(AED・点滴・吸引機・酸素ボンベなど)が搭載

・必要に応じて乗務員が医療処置をしながら移動可能

 

 

 

転院先の緩和ケア病院までは約50km、途中、高速道路を使用しても、約1時間半を要す道程でした。

 

 

主人は、あちこち管が繋がっている状態でしたし、身体中のあちらこちらに痛みが生じており、普通に座席に座ることも叶わない状況での転院でした。

そのため、私が運転する自家用車では、到底主人を乗せて移送することはできませんでした。

 

そこで、調べた結果、民間救急車のサービス・サイトに辿り着いたのでした。

 

 

単なる介護タクシーとは異なり、医療行為の出来る乗務員の乗車と、車内の設備面が充実しているため、数万円がかかりましたし、事前の予約・搬送に伴う事前電話打ち合わせが必要でしたが、主人の体調・距離的に、不安が否めなかったため、民間救急車を利用しました。

 

 

入念な打ち合わせの末、転院当日の朝、搬送出発時刻から逆算して、痛め止め・睡眠薬が効くよう服用し、スタンバイしていました。

 

民間救急車には、約束の時刻に病室へ迎えに来て貰い、病室のベッドから、民間救急車用のストレッチャーに主人を移し替えて貰い、ベルトで固定し、いざ出発。

 

民間救急車には、念のために、主人の母も同乗させて貰い、私は自家用車に主人の父を乗せ、民間救急車と並走して、転院先に向かう作戦です。

 

 

出発間際、ストレッチャーで民間救急車に乗り込んだ主人に、

「後ろから、私とお義父さんも追い掛けて行くからね。

 向こう(転院先)で合流しようね。」

と伝えて、手を握りました。

 

睡眠薬・痛み止めが効き、意識が薄らぎ始める中、主人は、

「あちこち痛いし、もしかしたらあっち(転院先)までもたないかもしれない。」

と、か細い声で言いました。

 

 

それまで弱音を吐くことなんか一度もなかった主人が、そう言うということは、余程のことだと感じ取りました。

 

 

転院先は自宅からほど近いところにありましたし、これまでの病院と違って、未就学児の面会の制限もありませんでしたので、

「今度の病院は、子供が頻繁に来られる所だから、頑張って行こうね。」

と元気付けて、民間救急車の出発を見送りました。

 

 

続いて、私も義父を乗せて、急いで自家用車を発進させました。

 

病院からすぐの所に、高速道路のインターチェンジがあり、そこから高速道路に乗り、民間救急車のテールランプを一瞬捉えたものの、その後まもなく私は主人を乗せた民間救急車を見失ってしまいました。

 

主人が入院してからというもの、私も、この病院から自宅まで、何回も、何十回も、自分で車を運転し行き来した高速道路で慣れているはずなのに、その私をぐっと引き離して、民間救急車はスムーズに運転して、先を行ってしまいました。

まして、サイレンも赤色灯も点けていないのに、それはスピーディーな走行でした。

 

 

同じ道を走って転院先に向かったにも拘わらず、結果的に私よりも、15分も早く民間救急車は転院先に到着していました。

 

なんなら私が先に到着して、主人と民間救急車を待ち受けるぐらいの意気込みだったのですが、主人はもう転院先の病室に先に到着して休んでいました。

 

 

その時点で、入院してから早2ヵ月、一歩も外出できず、食事制限もあり、ほぼ絶食で気力・体力・体重が落ちていた主人にとって、1時間あまりの高速道路の道程は、とても辛かったことと思います。

 

「あっちまでもたないかも。」

という一言が本当に最後の言葉になってしまうのではないかという恐怖がありました。

 

しかし、疲れている表情ではあるものの、転院先のベッドで休んでいる主人を見て、安堵した記憶が甦ります。

 

 

主人が呼吸していることを確認し、安心し、民間救急車の運転手さんに、私は無事搬送終了の書類に署名し、お渡ししました。

 

 

運転手さんが、

「奥さんが追って来るの分かってたんですが、少しでも(転院先への到着が)早い方が良いかと思って、ごめんなさいね。」

と仰いました。

 

 

「あっちまでもたないかも。」

という一言が主人の最後の言葉にならずに済んだのは、民間救急車の運転手さんが、少しでも急いで転院先に到着し、ベルトでストレッチャーに固定されている身体を早く解いてあげたいという一心で、懸命に運転して下さっていたことに尽きると思います。

 

 

 

転院ごときで、消防署の救急車は使えず、介護タクシーでは心許ないと思っていた私にとって、民間救急車というサービスは、大変有り難いものでした。

 

 

 

ここから先は余談になりますが、この出来事を、主人が他界した1ヵ月後に、私は25年来の古くからの友人と会う機会があったので、その友人に伝えました。

 

当時、その友人のお母様もガンが発覚し、自宅療養中でした。

その後、お母様の体調が芳しくなくなり、入院することになったそうです。

 

その際、私が話していた民間救急車の存在を友人は思い出し、自宅から入院先へ向かう際、民間救急車を使用し、大変重宝したそうです。

 

友人のお母様も然ることながら、他のご親族の皆さんも、民間救急車の存在をご存じなかったそうで、その存在を知っていて、なおかつ迅速に手配したその友人が賞賛されたということで、後日友人が私にお礼の連絡をくれました。

 

 

私は民間救急車の回し者では決してありませんが、私の単なる身の上話が、友人とそのご家族のお役に立てたのなら、本当に良かったと思います。

 

2件のフィードバック

    1. コメントありがとうございます。

      民間救急車の存在は、意外とメジャーではないのかもしれません。
      私も主人が利用することになるまでは、その存在に気付きもしませんでした。

      そのきっかけは、私が妊婦時代に活用しようとして登録したマタニティータクシーでした。
      まさに、妊婦に出産の予兆となる陣痛が始まったら、事前に登録しておいたタクシー会社に連絡をして、速やかに迎車に来て貰い、妊婦は乗車し産院へ向かうという、民間サービスでした。

      マタニティータクシーがあるなら、このような患者の移送サービスもあるのでは?と閃いて調べて、民間救急車に辿り着いたのでした。

      医療行為ができる乗務員さんもいらっしゃり、何よりスムーズかつスピーディーかつ安全な走行技術の運転手さんがいらっしゃる民間救急車という存在は、もっと多くの方に知って頂き、有効に活用して頂ければと切に願っています。

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