亡き主人には、中学時代からの親友がいました。
主人の余命宣告時、その親友は海外身赴任中でした。

主人の残り僅かな時間で、その親友と会えるタイミングが作れないだろうか?

差し出がましくも、私はそんなことを考えました。




男同士の腐れ縁です。
会いたいだなんて、口が裂けても主人が言うとは思えません。
でも、会いたいのでは…?


またその親友も、主人が旅立った後に、事の顛末を知ったら、どう思うだろうか…?
なぜ言ってくれなかったのか?
一度会っておきたかったと思うかも…?

そんな思いが脳裏を過りました。




主人の親友とは、私も結婚当初から面識がありました。

何しろ、主人と私の結婚式の余興・二次会のとりまとめをお願いし、快くお引き受け下さり、尽力して下さった方です。

とはいえ、私がその親友のご連絡先を直接存じ上げているわけではありませんでした。


だからといって、主人に確認するのも、気が引けました。

会えないと思っていた相手と会えた時の喜び、感動は一入なのではと考え、主人には内密に、親友との再会を果たさせてあげたかったのです。

まして、残り僅かな人生であるならば、少しでも記憶に残るステキな思い出として、演出したかったのです。





そこで、私は主人のFacebookから辿って、その海外赴任中の親友へ、主人が病と闘っており元気を失っているため、日本に帰国するタイミングがあれば、主人を元気付けて頂きたい旨、メッセージを送ってみました。

すぐに返事が返って来ました。


恐らくとても驚かれたことと思いますが、そんなことを微塵も感じさせない、落ち着いた返信でした。

ただでさえ、私がとんでもない境遇に置かれているところに、動転した返信を送ってはいけないと思っての、私を気遣って下さってのことだとすぐに感じ取りました。


残された時間は刻一刻と迫って来ている焦りもありましたので、私の言葉足らずな拙い説明を、ひとつひとつ確認する丁寧なご返信や励ましのご連絡を何度か下さり、「状況を理解しました。来月日本に帰国できるよう調整します。」と仰って下さいました。




それから約3週間後。

私の勝手な発案に快く応じて下さり、その主人の親友は本当に日本へ一時帰国を果たして下さいました。

主人と同等、いやそれ以上かもしれません、私は心から感謝しました。





主人には、親友と会うその瞬間まで内密にしました。

その時点で、主人はまだ気力体力が何とか残っていましたので、自宅療養をしていました。




親友と会うその日の朝、まず私は子供を預けに行きました。

その間際に、私は主人にこう告げました。

「戻って来たら、一緒に行きたい所があるから、出掛ける準備をして待ってて。」




その直前まで、精密検査・セカンドオピニオン・民間療法等々、一緒に様々な所へ出向いておりましたので、何ら不審がられることはありませんでした。


子供を預けると、私はすぐに自宅へ飛んで帰りました。
そして、主人を車に乗せ、親友との待ち合わせ場所に急ぎました。




主人には私と一緒にランチすると見せかけて、レストランに入り、着席したところで、私は一旦離席しました。
「トイレに行って来るね。」と。


そこで、レストランの外でスタンバイして下さっていた、親友と入れ替わったのです。




親友の方に、私は今回の帰国のお礼を丁重にお伝えするとともに、

「よろしくお願い致します。
主人の体調の急変に備えて、近くで待ってます。
何かあれば、すぐご連絡下さい。」
と託しました。




私がトイレから戻って来ると思っていたら、海外赴任中の親友が突然現れたのです。

それはそれは、主人は驚いたそうです。





あとは、主人と親友、2人だけの時間を久方ぶりに味わって欲しいと思い、2時間程、私はレストランの外で待っていました。

そろそろランチ終了かなと思い、遠巻きに眺めていると、食事を終えた2人がレストランから出てきて、固い握手をしていました。

その姿に、これがもしかしたら最後の再会かもしれない、そう思うと涙が溢れそうになりました。




とはいえ、2人は泣いていないので、ここで私が台無しにするわけにいきません。
ぐっと涙を堪え、私は2人に近付きました。





深々とお辞儀をする私に、親友は、
「あとは、よろしく頼みます。」
と言って、私にも固い握手をして下さいました。

本当にどれほどお礼を伝えても足りない程、心から感謝しました。





私が結婚するよりも遥か昔に、主人と親友は出会い、青春時代という長い時間を過ごして来た仲です。

翌日また単身赴任先の海外に戻ってしまう親友に代わり、私がきちんと最後まで主人を見届けるバトンを、しっかりと受け取りました。




そして、この時が主人と親友にとって、本当に最後の面会となりました。

最後の面会から、約2ヵ月後に主人は息を引き取りました。





さて、私の差し出がましい閃きによって、実現した親友との再会でしたが、あの日主人は親友とのランチ後、帰宅するとこんなことを言っていました。


「きみが出掛けるというから、遺影でも撮影しに行くのかと思ったよ(笑)。
それがまさか、アイツ(親友)とは驚いたよ。
海外赴任しているアイツとは、もう会えないまま(逝く)と思っていたから、本当にありがとう。」




主人と親友がどんな青春時代を過ごして来たのか、私は知りません。
あの日も2人がどんな話をしたのか、知る由もありません。




それでも、2人が最後の時間を少しでも楽しんで、記憶してくれていたのなら、差し出がましい余計なお節介であったかもしれませんが、私は本望です。





なお、このサイトを開設したことは、その親友の方には告げていませんが、心から感謝していることをここに記しておきたいと思います。

本当にありがとうございました。

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