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 緩和ケアコンサルタントとして独立した医師が山形市にいる。山形県内唯一の緩和医療専門医である神谷浩平氏は、非がんの疾患や病院以外の施設でも緩和ケアを普及させるべく、2020年10月に一般社団法人MY wells 地域ケア工房を立ち上げた。日本ではまだ珍しい緩和ケアコンサルタントという仕事について、代表の神谷氏に話を聞いた(2021年9月22日オンラインインタビュー。全2回の連載)

第2回はこちら(近日公開)


MY wells 地域ケア工房代表の神谷浩平氏

――MY wells 地域ケア工房の事業内容を教えてください。

 医療介護従事者の緩和ケアスキルの向上と地域医療における連携の促進などを目的に、県内各地域の医療機関・施設に緩和ケアコンサルタントとして定期訪問することが主な事業です。また、各施設の医師や看護師などの多職種スタッフを対象に、緩和ケアの普及啓発を目的としたセミナーや研修会などの企画運営も行っています。スタッフは私一人です。

 具体的な業務内容としては、患者さんの苦痛症状の緩和や、倫理的な問題のカンファレンスなどで各施設の医師や多職種チームのサポートをしています。また各施設の医療スタッフとともに、それぞれの施設・地域の実情に合わせた緩和ケアの普及についての勉強会などもしており、各施設のスキルアップを業務の目的としている点では、一般的な非常勤医とは異なります。

 医療機関との契約方式は、業務委託契約と個人契約の2種類があります。診療や処方などの医療行為を伴う業務の場合は個人契約であり、医療行為がなく派遣先スタッフへの助言やコンサルタントのみの場合は当法人との業務委託契約としています。セミナーや研修会なども業務委託契約です。法律の関わる手続きなので、どちらにするかは各医療機関の事務方や税理士と相談して決めています。

――どのような依頼があるのでしょうか。

 従来の緩和ケアというと、がん診療連携拠点病院で緩和ケアチームの設置が条件とされていたように、がんや終末期の患者さんを対象に行われるものというイメージがありました。それは2007年に施行されたがん対策基本法によるところが大きかったのですが、近年は非がん疾患の患者さんとご家族への緩和ケアのニーズが高くなっています。また、2019年に施行された脳卒中・循環器病対策基本法と、2020年に策定された循環器病対策推進基本計画に緩和ケアが盛り込まれたこともきっかけとなり、心不全の患者さんを対象とした緩和ケアに取り組む医療機関も増えてきています。

 そういう流れの中で、日本緩和医療学会認定の緩和医療専門医が山形県で私一人しかいないこともあり、各病院内に緩和ケアの専門家がいない中、緩和ケアの実施体制をどのように整えていくかが大きな問題であると感じました。まず若い医師を緩和ケアの専門家として育てるのは時間がかかります。また、疾患や病期を問わずに提供する緩和ケアは、各専門科の医師が行う基本緩和アプローチが中心になり、それを専門家として支援するには、さまざまな疾患についてより広く学ぶ必要があるという私の考えがあります。

 そこで私は、今できることとして、緩和医療の専門家を育てるだけでなく、現在診療に当たっている各科の先生方や看護師さんたちに緩和ケアの基本的なトレーニングを受けていただくことが、現場の患者さんやご家族に緩和ケアを届けるために必要なのではないかと考えました。実際に、コンサルタントとして病院にうかがい、各病院の緩和ケアの充実を目指す医師やチームにアドバイスをする形で契約させていただいています。診療ではなく純粋なコンサルテーションの依頼では、院内・地域での勉強会の講師、多職種カンファレンスのアドバイザー、教育病院で臨床実習中の学生への教育、がん患者さんの治療の全体を話し合うキャンサートリートメントボード(CTB)にアドバイザリーとして同席、といった業務があります。

――実際の業務内容やスケジュールについて教えてください。

 定期的にうかがっている各医療機関では、そこの先生や看護師さんと一緒に業務をしつつ、コンサルタントの立場で緩和ケアに関するフィードバックをしています。診察もしますが、薬の処方はあまりしていません。県立中央病院に勤務医として在籍していたときも、院内で緩和ケアのコンサルテーションをしていたので、緩和ケアコンサルタントという仕事は抵抗なく行うことができました。

MY wells 地域ケア工房の1カ月のスケジュール

 診療を含む契約で巡回している医療機関は10施設ほどです。毎週通っているのが3病院と1つのクリニック、2週間に一度が2病院、週2日で2週に一度行っているのが1病院、月に一度が2病院です。学生教育で山形大学に2週間に一度行っています。各病院をまわっているので、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策には非常に気を遣っています。

神経難病を専門的に診療する病院でコンサルテーションを行う神谷氏(左から4人目)

 そのほかにも、在宅医療の専門ではない開業医の先生が病院から患者さんを紹介されたときに、症状緩和の方法について電話やメールなどでこちらに相談が来ることもあります。ただし、患者さんから直接当法人に「在宅で診てください」と頼まれても、それはお受けしていません。当法人は保険医療機関としての指定も受けていないですし、あくまでも医療介護従事者にコンサルタントを行うのが私の仕事ですので、そこは厳密に区別しています。

――コンサルタントとして独立して約1年です。振り返ってみていかがですか。

 私は緩和医療専門医の肩書きをいただいていますが、基本的な緩和ケアというのは必ずしも専門家がやるものではないと思っています。県立中央病院では若い医師たちの研修に携わってきましたが、緩和ケアの知識は、彼らが別の専門科に進んでもそれぞれの現場で生かしていくべきものです。若いうちから緩和医療の専門家を目指して研修・キャリアを重ねていく部分と、緩和ケア以外の診療科に進んでからも基本的な緩和ケアの知識を磨いて現場の患者さんとご家族により良い対処をしていく部分の、両方の育成が必要ではないかと私は考えています。

 緩和ケアの基本的な部分は、全ての医療従事者が行うということです。例えば循環器科の医師のように、これまで緩和ケアとは縁のなかった先生方からのコンサルテーションも受けてアドバイスをしています。

 ただこの1年間、非がんの診療科の先生からは、私が期待していたほどには依頼が増えていませんが、心不全、慢性呼吸器疾患、神経難病などの各学会では、緩和ケアに関する教育ツールやガイドラインなどの整備が進んできています。これから各診療科の先生方にも、緩和医療・緩和ケアをご自身の専門分野の中で学ぼうというモチベーションを持っていただければと感じています。

 もちろん成果も見えてきています。毎週金曜日にうかがっている、神経難病の専門病院である国立病院機構山形病院では、緩和ケアの専門チームが立ち上げられました。他の病院でも、この1年間にまいた種が少しずつ育ってきているので、次の1年間も続けていくことでさらに成果が出るのではないかと期待しています。

◆神谷 浩平(かみや・こうへい)氏

2001年、山形大学医学部卒業。同大学附属病院麻酔科、山形県立中央病院麻酔科を経て、筑波メディカルセンター病院緩和医療科へ。2010年に山形県立中央病院緩和ケア病棟医師となり、2011年に同院緩和医療科医長に就任。2020年に退職し、一般社団法人MY wells 地域ケア工房を設立。日本緩和医療学会・緩和医療専門医。

【取材・文=渡辺悠樹(写真は神谷氏提供)】

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