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はじめに

 本稿では、婦人科がんのうち子宮頸癌に絞り、早期癌における機能温存・低侵襲手術、術後高リスク例に対する補助療法および転移再発癌の薬物療法について、最近の治療開発の流れを解説します。

根治的手術療法と補助療法

2つの標準治療の適応と課題

 子宮頸癌に対する主治療には、根治的手術療法(広汎子宮全摘出術)と根治的放射線療法の2つの治療法があります。一般的に、切除可能なI期とII期に対しては手術を、切除困難な局所進行癌であるIII期とIVA期や腫瘍が大きい場合には根治的放射線療法が選択されますが、I期とII期には根治的放射線療法が行われる場合もあり、2つの治療選択肢があることになります。

 I期とII期に対する手術療法と根治的放射線療法の有効性については、両者を比較するイタリアのランダム化比較試験(RCT)の結果が1997年に報告されています。5年無病生存割合はともに74%、5年生存割合もともに83%であり、両治療群に有意な差は認められませんでした(Landoni, Lancet 1997)。

 現在も両治療ともに標準治療であり、II期までは患者の年齢や腫瘍の大きさなどにより、治療法の選択が行われています。主治療として手術療法を選択することの利点は、病理組織学的所見に基づいた再発リスクの評価と、術後治療の必要性をリスクに基づいて検討できることが挙げられます。術後の病理診断にてリンパ節転移、もしくは子宮周囲(子宮傍組織)への浸潤を認める場合は再発高リスクと考えられ、術後補助療法として化学放射線療法が推奨されています。一方で広汎子宮全摘出術の問題点として、骨盤内の自律神経損傷による排尿障害やリンパ節郭清によるリンパ嚢胞、リンパ浮腫といった術後の合併症が挙げられます。近年、予後の良い早期例に対する機能温存縮小手術や低侵襲手術の意義の検証が試みられています。

低リスク例に対する機能温存手術・低侵襲手術の意義の検証

凖広汎子宮全摘の非劣性を検証

 JCOG婦人科腫瘍グループは、2013年より広汎子宮全摘出術による排尿障害の低減を目的とした、機能温存手術の有用性を検証するJCOG1101試験を実施しました。腫瘍径が2cm以下の早期子宮頸癌を対象に、排尿機能を温存した低侵襲手術である凖広汎子宮全摘出術(試験治療)が、広汎子宮全摘出術(標準治療)に全生存期間で劣らないことを検証する単群検証的試験です。

 JCOG1101試験に先立ち、IB1期広汎子宮全摘出術実施例を対象とした観察研究(JCOG0806A)が行われ、術前診断で腫瘍径2cm以下であった患者では子宮傍組織浸潤割合は1.9%と低く、局所再発割合も2.2%と低いことが確認されました(Kato, Gyn Oncol 2015)。この結果から、子宮傍組織浸潤が極めて少ない腫瘍径2cm以下のIB1期では、準広汎子宮全摘出術でも根治性が損なわれない可能性が高いと考えられました。JCOG1101試験で準広汎子宮全摘出術の非劣性が証明されれば、早期子宮頸癌においては機能温存術式である準広汎子宮全摘出術が新たな標準術式となり、術後の排尿障害の低減が期待できます。同試験は2017年8月に登録が完了して現在追跡中で、2022年8月に主たる解析が行われる予定です。

SNNSでリンパ浮腫の回避に期待

 センチネルリンパ節ナビゲーション手術(Sentinel Node Navigation Surgery:SNNS)は子宮頸癌においても臨床応用が進められ、近年、診断精度が確立しつつあります。特に腫瘍径が2cm未満の場合にリンパ節転移を同定する感度と特異度が高いとされており、同手技の適応と考えられています。センチネルリンパ節が転移陰性であれば骨盤リンパ節の系統的郭清を省略し、手術合併症であるリンパ浮腫の発生を回避することが可能となります。最近、早期子宮頸癌を対象に、SNNSに系統的リンパ節郭清の追加の有無で予後を比較するRCTが行われました(SENTICOL2試験)。両群の予後に有意差は認められず、系統的郭清省略の安全性も確認されました(Mathevet, EurJC 2021)。現時点では、まだ限定された施設においてのみ行われている技術ですが、今後は標準治療として展開される可能性があります。

若年患者への妊孕性温存手術

 若年で腫瘍径2cm以下の早期子宮頸癌を対象に、子宮体部を残して妊孕性を温存する広汎子宮頸部摘出術(radical trachelectomy)も限られた施設で行われています。同手術を広汎子宮全摘出術と直接RCTで比較して安全性を検証することはできませんが、後方視的解析においては、広汎子宮全摘出術と同等の治療成績であると報告されています。若年の早期子宮頸癌患者では、同手術によって妊孕性を温存することが可能になりますが、一方で子宮頸管狭窄、子宮性無月経、不妊症などの特徴的な術後合併症や、妊娠した場合に流早産が多くなることも示されており、同手技の実施に当たっては生殖周産期医療や新生児医療との協力体制が不可欠です。

広汎子宮全摘、低侵襲手術で予後悪化に衝撃

 従来、広汎子宮全摘出術は開腹手術として行われてきましたが、近年の腹腔鏡下手術、さらにはロボット支援下手術の普及により、広汎子宮全摘出術の低侵襲化が進められてきました。早期子宮頸癌を対象として、腹腔鏡下またはロボット支援下での広汎子宮全摘出術(低侵襲手術群)と従来の開腹手術を比較し、非劣性を検証するLACC試験が行われました。しかし、低侵襲手術群は開腹群に比べて有意に予後が不良であることが示されました(3年無病生存割合:91.2%, 97.1%; HR3.74, 95%CI 1.63-8.58、3年全生存割合:93.8%, 99.0%; HR 6.00, 95%CI 1.77-20.30 、Ramirez NEJM 2018)。米国SEERデータベースを用いた研究においても、低侵襲手術は開腹手術と比較して4年死亡割合が有意に不良である(HR 1.65, 95%CI 1.22-2.22)と報告されました(Melamed, NEJM 2018)。これらは衝撃的な結果でした。当時、本邦においても腹腔鏡下低侵襲手術が普及しつつあるところでしたが、これらの結果を受けて以降は、低侵襲手術を行うための施設規準を設定し、手術例の安全性と有効性を検証していくことになりました。

(後編につづく)

石川 光也(いしかわ・みつや)

国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科医長

1996年慶應義塾大学医学部卒業、産婦人科学教室入局。関連病院および大学病院で研修の後、国立埼玉病院、東京歯科大学市川総合病院を経て、2009年より国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科勤務、2014年より現職。JCOG婦人科腫瘍グループ事務局


【監修】 福田 治彦(ふくだ・はるひこ)

国立がん研究センター中央病院臨床研究支援部門データ管理部長、JCOGデータセンター長。1987年、神戸大学医学部卒。1987年より神戸大学とその関連病院、国立がん研究センター中央病院で消化器内科・消化器内視鏡の診療に従事、1996年よりJCOGデータセンターの実務管理、1999年よりJCOGデータセンター長

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