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私が訪問している患者さんには、重度の障害があり、たんの吸引や胃ろうからの経管栄養の注入など、日常的な医療ケアを必要とする方がたくさんいらっしゃいます。以前、「長期療養型病院」に勤務していたときにも、そういった医療ケアが常時必要なため、自宅での生活が困難な入院患者さんにたくさん出会いました。「ほんとうは家に帰りたい」と涙ながらにつぶやく患者さんのお話を聞きながら、自分の無力感にさいなまれたこともありました。
「障害があっても地域で自分らしく暮らせる社会」を目指して、国は「地域包括ケアシステム」の構築を進めていますが、望んでも「自分らしい暮らし」がかなわない患者さんは、半ばあきらめの気持ちで毎日過ごしています。しかし、そんな患者さんの生活を支えたいと願う重度訪問介護のヘルパーさんの存在をご存じでしょうか。
介護職員が生活の場で行う医療的ケア

たんの吸引研修に取り組む介護士さん
重度の障害があるために、唾液を飲み込んだり、自力でたんを出したりができない患者さんの場合は、誰かが日常的に吸引する必要があります。現在は、所定の研修を受ければ、介護職でもたんの吸引などは認められていますが、以前はそういった医療行為は医師や看護師にしか認められていませんでした。また、介護職員がたん吸引を行う制度を検討するなかで、一部からは反対する声も上がりました。
しかし、さまざまな調査から、24時間365日、重度障害のある患者さんに対して、看護師が施設や在宅でたんの吸引を行うことは現実的に不可能であることがわかりました。生活の場でそれらの医療行為ができる介護職員がいなければ、不眠不休で付き添わなければならない家族が疲弊してしまいます。
患者さん側からの強い要望もあり、2012年(平成24年)に介護職員を対象としたたんの吸引と経管栄養の注入のための研修が始まり、それらの行為が法的に認められることになったのです。
訪問介護中に苦しむ患者さんに動揺
仙台市に住む大西雄二さん(49)には、脳出血の後遺症による左半身 麻痺 、 嚥下 障害、高次脳機能障害があります。私は14年から大西さんを訪問し、飲み込みやすい食事の調理方法や、胃ろうからの栄養量の確認などをしてきました。ある日、大西さんのもとを訪問すると、新人ヘルパーさんが着任していました。有沢さんという30代の女性(介護職員実務者研修修了者)でした。彼女は大西さんの外出支援の際にもよく同行し、ショッピングモールのフードコートで、大西さんが選んだ「たこやき」や「オムライス」を私が飲み込みやすく調整するのを興味津々にのぞき込み、「味見していいですか?どうやって作るのですか?」と積極的に質問してくる熱心な介護士さんです。大西さんに対して、よりよい介護をするにはどうしたらよいかを常に考えている有沢さんに、私自身も刺激を受けています。
ある日、有沢さんが大西さんを訪問すると、妻の幸恵さんは銀行などへ用足しに出かけるとのこと。有沢さんは大西さんとふたりきりになりました。幸恵さんが出かけたあと、しばらくして大西さんが唾液を誤嚥し、せき込みはじめました。緊急事態なので有沢さんが吸引しようと試みますが、大西さんの苦しむ表情に焦りが募ります。幸恵さんに連絡したものの、電話はつながらず、訪問看護師もすぐには駆けつけられませんでした。その後、やっと電話を受けた幸恵さんが急いで戻り、吸引して大事には至りませんでした。有沢さんは「自分がきちんと吸引ができれば、こんなに大西さんが苦しまなくて済んだのに」と自分を責めました。
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