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青森大学の青森大学青森ねぶた健康研究所による免疫増強剤(アジュバント)ARNAX開発事業が、間もなく実用化を迎える。同大が2019年に創薬拠点として設立した青森大学青森ねぶた健康研究所は、AMED(革新がん・領域3)の支援を受けて「高齢者にも安全に使える免疫増強剤(アジュバント)」の開発に取り組んでいる。
青森県はがん・生活習慣病の死亡率が高く、最短寿命県とされている。疾患の1次・2次予防はどうしても後手に回り、研究レベル・予防医学レベルの向上が問われている。既に病気を抱えている人の治療は病院の整備・改善で賄えるが、予防を目指す医薬系の研究施設は十分とは言えない。
青森大学は2019年に創薬拠点として「青森ねぶた健康研究所」を学内に立ち上げ、AMED(革新がん・領域3)の支援を受けて「高齢者にも安全に使える免疫増強剤(アジュバント)」の開発に取り組んでいる。がん、血管障害、感染症は免疫の減衰が原因になり得るヒト疾患で、健康寿命の大敵である。
同研究の総論は、2019年Advanced Drug Delivery Reviews (doi: 10.1016/j.addr.2019.07.008)、2020年Expert Opinion on Biological Therapy(doi: 10.1080/14712598.2020.1749260)に公表されている。
■免疫増強剤の必要な理由
寿命には天寿(老衰)とアクシデント死(病死・事故死・自殺など)がある。青森県の場合は高齢者の75%ががん、生活習慣病(血管の老化)、肺炎など疾患を抱えて不自由な生活を送り、介護・高死亡率の原因となっている。これらの疾患は、高齢化に伴う免疫の機能低下に起因するという証拠が蓄積されている。
ヒトの自然死が50歳台であった60年前までは、結核をはじめとする感染症が主な死因であった。しかし、生活習慣病は長寿化に伴って増加が見えてきたことから、現在の医療問題であるといえる。これらの疾患に共通する現在の問題は、免疫の老化とその対策が予防対策として要求されることである。おそらく認知症も脳の老化の一例で、免疫劣化の表象という側面がある。
免疫は感染症に伴って上がることが知られているが、それが誘起する炎症(自然免疫応答、サイトカイン・インターフェロン・プロスタグランディン系)は、同時に細胞劣化の引き金となる。炎症なしに免疫を強める方法が無いため、健康寿命は伸びにくいのである。この問題が克服されれば、人類は健康な100歳という長寿を手に入れることができるだろうが、次の課題は老後生活のクオリティ(快適さ)となることであろう。AI介護ロボットや医療システムの改良、さらに高齢者対策の政策転換の問題が顕在化する。
■健康寿命延伸対策と方法
病院医療の質と体制は重要だが、発症してしまった疾患を扱う現行の保健制度では本質的な高齢者問題の解決は望めない。免疫を強めて疾患を予防する免疫増強剤の開発と未然の予防(未病)が高齢者医療、特に老後のQOL(生活の質を上げる)のために必須となると考えられる。
われわれはこのことを予期して、高齢者にも安全に使えて副作用のない免疫増強剤(アジュバント)の開発研究を続けてきた。大阪・札幌で25年の基礎研究の結果、安全に免疫を強める合成核酸(ARNAX)の製造に成功。2019年度から国(AMED)の支援を受けて青森大学が青森ねぶた健康研究所を創設し、2021年から先端免疫療法研究所(IAI)というベンチャー会社を青森に立ち上げて、免疫増強剤の開発研究に取り組んでいる。
化学合成の大手企業に量産ルートを確立してもらい、青森ねぶた健康研究所が検定したARNAX標品をまず末期がんの抗がん免疫療法に適用。均一で安全な規格、Good manufacturing practices(GMP)の基準を満たす原薬製造が求められる。
現在、複数の大学病院などが、ARNAX臨床治験への参加を希望している。さらに、安全な免疫増強剤なので、コロナワクチンのアジュバントにも共同研究で適用が検討されている。GMP化は規制上のハードルとなるので、IAI社が資金を調達。国は承認申請のためにPMDA相談を企画して支援している。現在、アカデミアから製薬企業への導出を検討しているが、大型企業の招致が必要となる。
■がん領域への適用
チェックポイント阻害剤は、がん免疫療法の有効性を実証した。しかし、固形がんの寛解率は20%台に留まる。PD-1/L1抗体療法の寛解率を飛躍的に上げるには、がん患者に腫瘍特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を増殖させるアジュバントを開発する必要がある。社会的要請は、がんを治せて副作用の少ない免疫療法の確立である。
ARNAXは従来の炎症性アジュバントと異なり免疫(抗原提示樹状細胞)のみを標的とするため、本質的にサイトカイン毒性の副反応がない。まず、ARNAXのGMPを用いて放射線もしくはユニバーサル抗原との併用で非臨床POCを取ることを目指す。抗PD-1/L1抗体治療抵抗性の腫瘍の退縮・寛解とともに、既存のPD-1/L1抗体薬との併用療法が期待できる。将来的には、根治治療のできない多種類のがんに広く適用しうると考えられる。
まだ世界的な競合の中でARNAXに勝る免疫増強剤は開発されておらず、臨床試験の成功と大企業の資金的貢献が期待される。
■感染症ワクチンへの適用
感染症、特にウイルスに対するワクチンは、弱毒化・不活化全粒子ワクチンが主流であり、ワクチン接種後一般に発熱・頭痛などのサイトカイン毒性(自然免疫応答)が直ちに見られる。SARS-CoV-2コロナワクチンもRNAと脂質粒子を使うため発熱・倦怠など自然免疫の副反応を免れない。すなわち、感染の副反応をワクチンが模倣する結果となる。
ARNAXが認可されれば、副反応がないので、現行のアラムアジュバントに替わって多くの感染症ワクチンに適用拡大が見込まれる。現在、IAIが北海道大学に産業創出講座を立ち上げ、国立感染症研究所などとコロナ感染症対策を見越した感染症ワクチン開発の共同研究を推進している。
■独自性・社会貢献性
ARNAXはToll-like receptor 3(TLR3)を標的とする。TLR3 は抗原提示樹状細胞(ヒトではCD141+ DC, マウスではCD8a+ かCD103+ DC)に高発現し、ARNAXは抗原提示を強く選択増強してCTL誘導を増幅する(Matsumoto et al., Nat Commun 2015, Takeda et al., Cell Rep 2017)。蛋白抗原であればIgA抗体産生も促進する(Takeda, Takaki et al., BBRC 2018)。
以上の基礎知見から、抗原蛋白モジュールとARNAXにより、高齢者にとっても極めて安全性の高いがん、感染症の成分ワクチンを提供し得る。
無害なアジュバントはワクチン領域で世界的に嘱望され、2重鎖RNAが最も有望視されている。RNA領域ではpolyI:C, Ampligen などが、がん領域で競合的な治験を行っている(Oncoimmunology 9: 1, 1771143, 2020)。これらの開発候補品の承認を阻む重大な有害事象は、サイトカインの副作用である。それがクリアーされなければ、実用化のハードルを越えることは難しい。
■炎症なしに免疫を強める方法―重要な知見
現在、感染症、特にウイルスに対するワクチンとして主流である弱毒化・不活化全粒子ワクチンは、ワクチン接種後、一般に発熱・頭痛などのサイトカイン毒性(自然免疫応答)が直ちに見られ、感染の副作用をワクチンが模倣しているといえる。模倣を抑えたインフルエンザワクチンなどは効きが悪い。現行ワクチンの問題は、2次的にTh2の免疫活性化を起こし、CTL誘導を阻むことである。
一方、成分ワクチンはアジュバントを独立に設計でき、Th1 アジュバントを選択できる。自然界のTLRアジュバントはほぼ全てが炎症誘起アジュバントであり、Th2指向である。2重鎖(ds)RNAは例外でTh1を指向するが、細胞質内RNAセンサー(MAVS経路)によるサイトカイン血症を誘起する問題を残す。以上、TLRアジュバントは多数の候補ががん・感染症ワクチンの領域で承認申請を目指してきたが、ARNAX以外は副反応のため認可されにくいのが現状である。
ARNAXは樹状細胞の直接標的化により炎症の問題を克服し、抗原パートナーを選択してワクチンを補完できることから、アラムを超えて多くのワクチンに貢献できると期待される(Matsumoto et al EOBT 2020)。
100年前の1922年にアラムがアジュバントとして認可されてから、多様性アジュバントの追加承認はほとんどない。ARNAXは多くのワクチンに高い安全性と無症状を担保して、アラムに置き換わると考えられる。ARNAXは日本発の発明となる。
■研究グループ
・青森大学青森ねぶた健康研究所
・先端免疫療法研究所(IAI)
・神戸医療産業都市推進機構(TRI)
●青森大学青森ねぶた健康研究所
https://www.aomori-u.ac.jp/aomorinebutakenkokenkyujo/
▼本件に関する問い合わせ先
青森大学 広報担当
住所:青森県青森市幸畑2-3-1
TEL:017-738-2001
FAX:017-738-0143
メール:koho@aomori-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
プレスリリース詳細へ https://user.pr-automation.jp/r/53093
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