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(海外がん医療情報リファレンス3月31日付記事を転載)

 2020年に7歳の娘Evaが進行性のウィルムス腫瘍と診断された後、LaBonne夫妻は、ナッシュビルのヴァンダービルト-イングラムがんセンター(VICC)の医師にセカンドオピニオンを求めた。しかし、チャタヌーガの自宅から車で2時間半かけてナッシュビルに行って診察を受ける代わりに、LaBonne一家はVICCの小児腫瘍医とビデオ通話をした。

 「子供ががんを患っているとき、病院に行かずにもう1日家にいられるというような些細なことで、大きな違いが生まれます」と妻のAliciaは言う。バーチャル受診で「家族全員がとても楽になりました」

 ビデオ通話中、ヴァンダービルト-イングラムがんセンターの腫瘍医はEvaのカルテを読み、Evaの特殊な腫瘍に関する知識を共有し、そして、最良の結果を得るための治療法について話し合った。これはすべてLaBonne家のキッチンテーブル上に置いたノートパソコンで行われた。

 夫のChrisは、丸一日かけてナッシュビルに行く代わりに、30分ほどテレワークを休むだけでよかった。その遠隔診療がうまくいったので、夫妻はEvaの治療をヴァンダービルト-イングラムがんセンターに移すことにした。

 その後、一家は小児外科医と面会してEvaの手術計画について話し合い、放射線腫瘍医とは放射線治療のスケジュールを調整した。この面談も遠隔診療であった。2020年12月、Evaはヴァンダービルト-イングラムがんセンターで対面での治療を開始した。

 「もし遠隔診療で化学療法を実施できたら、そうしていたでしょう」とAliciaは冗談を言う。2021年7月、画像検査でEvaのがんが消えていることが確認された。

 LaBonne一家のような家族にとって、医療従事者とコンピュータ上で会うという選択肢は、がん治療の経験を新たなものにしている。遠隔診療は、対面診療に完全に取って代わることはできないが、患者に利便性や時間と費用の節約、柔軟なスケジュール調整、遠方の専門医へのアクセス、多くの患者と医師が無形の利点と表現する病原菌への曝露の減少などをもたらす。

 がん治療だけが遠隔診療の成長を示す例ではない。プライマリケアから心臓病まで、COVID-19パンデミック中に遠隔診療の利用が急増したように、このバーチャル形式の医療へのアクセスを求める声も高まった。

 しかし専門家は、がん治療での遠隔診療の役割とそれを公平に提供する方法についての理解はまだ初期の段階であると注意を促す。遠隔診療がパンデミック時の一時的な解決策から、必要とするすべての人がアクセスできるがん治療の恒久的かつ不可欠な要素へとうまく移行できるよう、研究が必要であると専門家らは述べている。

がんケアのバーチャル受診が普及

 遠隔診療とは、医師や医療従事者が遠隔地から電子的な手段で提供する医療のことである。遠隔診療は通常、電話やビデオ通話で実施され、患者と医療提供者の間で電子メールやテキストメッセージをやり取りすることもできる。

 場合によっては、ウェアラブル活動量計などの機器を用いて患者の症状に関するデータを電子的に収集し、遠隔モニタリングすることで遠隔診療を補完することもある。

 今日実施されている遠隔診療の発展は、1960年代にNASAが宇宙にいるときの宇宙飛行士の健康状態を監視する技術を開発したことに端を発する。遠隔診療はやがて主に臨床診療で用いられるようになり、COVID-19パンデミックのために患者ケアのほとんどあらゆる側面で広く採用されるようになった。

 ダートマス-ヒッチコック・ヘルスの遠隔医療センターのメディカルディレクター、Kevin M. Curtis医師によれば、パンデミック前、この学術医療センターは外来患者の定期的な遠隔診療を1日平均8件実施していたという。2020年4月に初めてパンデミックがピークに達したとき、遠隔診療の数は1日で2,600件以上に膨れ上がった。

 ダートマス・ヒチコックのノリス・コットンがんセンターでの遠隔診療の導入は、当初他の専門分野より遅かったが着実に増えている、とCurtis医師とともにがんセンターでの遠隔診療利用の傾向を研究してきたノリス・コットンのAnna Tosteson博士(理学)は述べた。

 「パンデミックでの経験から、遠隔診療がタイムリーな治療へのアクセスの面で画期的な変化をもたらす可能性があることが明らかになりました」と同博士は述べた。

 Curtis医師は、「パンデミック前はほとんどありませんでしたが、最近ではおそらく腫瘍科の外来患者の約12%が遠隔診療で診察を受けています」と説明した。このがんセンターが当初遠隔診療を導入するのが遅かったのは、少なくとも部分的には遠隔診療プラットフォームの限界が原因だったかもしれないと、博士は付け加えた。その後、プラットフォームはアップグレードされた。

 他の米国国立がん研究所(NCI)指定がんセンターでも、パンデミック中に遠隔診療の利用が増加した。2020年8月にテキサス大学サンアントニオ校メイズがんセンターでは、患者の診察の40%が遠隔診療であった。フィラデルフィアにあるジェファーソンヘルスのシドニー・キンメル総合がんセンターでは、2020年3月から7月にかけて患者約7,000人が遠隔診療で受診したが、2019年の同時期は約150人であった。

 遠隔診療の急増は、公衆衛生上の緊急事態の間に、医療従事者が州境を越えて遠隔診療を提供できないなどの遠隔診療をめぐる制限の一部を緩和した、一時的な政策措置が一因である。

 また、多くの州は臨床医が遠隔診療を提供するための免許要件を免除した。現在、このような変更の一部を恒久化するための法案が議会を通過しつつある。例えば、遠隔医療推進法は、メディケア受給者がどこに住んでいても遠隔診療にアクセスできるよう、地理的な制限を撤廃することを目的としている。

 Curtis医師は、この立法の取り組みと保険償還や免許に関する政策がどのような結果をもたらすかが重要になるであろう、という。なぜならこのような変数が、病院や医院が遠隔診療に長期的に投資する意欲に影響が及ぶ可能性があるからである。一方、医療界にとっては、遠隔診療が患者と臨床医の双方に価値をもたらすことを示す証拠を蓄積し続けることが重要である、と述べた。

遠隔診療は高い満足度をもたらす

 一連の法案が複雑な立法の道を進む一方で、多くのがん患者が遠隔診療に高い満足感を示していることが報告されている。入手可能なデータによれば、がんの遺伝相談など、特定のニーズについては特に満足度が高いようである。

 Larry Starling氏が地元の病院で受けた男性乳がんの治療は、ヴァンダービルト-イングラムがんセンターの腫瘍医が遠隔診療を通じて指導している。バーチャルでは患者が医療従事者との間に断絶を感じるかもしれないという認識とは逆に、Starling氏は、遠隔診療が対面の診療よりも個別な対応であることが感じられたと述べた。

 「診察室では、医師は次の患者さんのことを考えています」とStarling氏。「ところが、遠隔診療では自分と医師だけで、自分にしっかりと目が向けられているように感じます」

 Starling氏によれば、ヴァンダービルト-イングラムがんセンターの腫瘍医とオンラインで画面を共有して一緒に検査画像を見ることができるという。「このテクノロジーは、ほとんど医師と一緒に診察室にいるように感じられるほどです」とStarling氏。「遠隔診療で先生と話しながら、つながっているという感覚を失うことはありませんでした」

 臨床医は、一般的に遠隔診療に高い満足度を示している。2020年春に実施された腫瘍医約200人を対象に実施された調査では、大多数が遠隔診療に満足し、継続利用を希望していた。実際、調査対象者の60%近くが、治療計画の話し合いや検査結果の確認など、患者ケアのほとんどがビデオ診療で十分だと考えていた。

 しかし、「医師と患者の強い結びつき」を促進するためには、対面が望ましいと感じる人が大多数を占めた。さらに、新規の診断や終末期についての話し合いなど、ある種の問診は対面の方が良いと感じていた。

 「遠隔診療ではできないこともあります」と、今回の調査には参加していないヴァンダービルト-イングラムがんセンターのコミュニティ科学と健康上の転帰担当のアソシエイトディレクターのDebra L. Friedman医師は述べた。「マンモグラフィを撮る方法はありませんし、大腸内視鏡検査の方法もありません。肺がん検診の低線量CTスキャンもできません」

健康格差への対処

 遠隔診療の需要が高まる中、専門家は、高齢者や地方在住者など、遠隔診療から最も利益を得る可能性のある一部の人々が取り残されてしまうのではないかと懸念している。それには低所得者層や人種/民族的少数派の人々、英語が母国語でない人々も含まれる。

 「遠隔診療は格差に対処できる可能性があります。取り残された人々は、交通の障壁、仕事から離れる時間、介護のための相容れない要求などの問題に過大な苦労をすることがあるので、遠隔診療によってこの負担を大分軽減することができるのです」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校社会的弱者のためのセンターでアソシエイトディレクターを務めるUrmimala Sarkar医師は述べた。

 しかし実際には、多くの人にとって遠隔診療が現実的なものになる可能性を妨げる、ある種の障害があるとSarkar医師は付け加えた。高速インターネットがない、言葉の壁、遠隔診療のために使用するテクノロジーが苦手といった問題は、多くの患者にとって乗り越えられないものである。

 「見えているのは、格差を是正するという理論上の可能性と、遠隔診療を実際に機能させる手段に乖離があるということです」と、同医師は指摘する。

 「格差に対処するどころか、格差を生み出しているのではないかと心配しています」とFriedman医師。「というのも、分かったことは、遠隔診療を利用する傾向が最も高い患者さんは、実際に最も多くのサービスを受けていた患者さんだったからです。民族/人種的マイノリティでもなければ、社会経済的地位の低い患者さんでもありませんでした。そのような人たち(編集部注:民族/人種的マイノリティや社会経済的地位の低い患者さん)は遠隔診療に苦戦していました」

 カンザス大学がんセンターの研究者らは、遠隔診療利用の傾向を特定するために、新たにがんと診断された患者16,000人のメディケアのレセプトデータを調べた。

 がんと診断された後30日以内に遠隔診療を利用していた患者は、社会経済的地位が最も高い集団では約70%であったが、社会経済的地位が低い場合は半数に満たないことが分かった。社会経済的地位が最も高い集団の患者は、その後も遠隔診療を利用する割合が高かったが、社会経済的地位が最も低い集団では、その割合は低いままであった。

 農村部の人々の遠隔診療の利用に影響を及ぼす因子を研究しているダートマス-ヒッチコック・ヘルスのMatthew B. Mackwood医師/公衆衛生学修士は、ビデオ通話を使った遠隔診療よりも「はるかに一般的で人々にとって身近なのは電話の利用です」と指摘した。

 パンデミックが沈静化するにつれ、電話を使った遠隔診療を健康保険の適用から除外または制限する案が出されている。もしそのような変更がなされれば、がんケアでの既存の格差がさらに悪化する可能性があるとMackwood医師は述べた。

 「私たちのがんセンターでは、およそ80~90%の遠隔診療がビデオではなく電話で実施されています」と同医師。

 Friedman医師らは、ENCORE試験と呼ばれる臨床試験を実施中であり、遠隔診療を通じて農村部の病院の医師や患者がヴァンダービルト-イングラムがんセンターの腫瘍医の専門知識や支持療法を利用できるようにして支援し、それががんケアの強化につながるかどうかを検証している。

 現在、医師はZoom、Webex、患者の電子カルテに統合されたプラットフォームなどのさまざまなビデオ会議システムを使用しており、このようなテクノロジーが苦手な人では、プラットフォームの混在が混乱を招く可能性があると指摘した。

 「私たちが ENCORE試験でやっているのは、何が有効で何が有効でないかのデータを収集することです」とFriedman医師は述べた。「もっと簡単なプラットフォームが必要です。そして常に人間によるサポートが必要だと思います」

遠隔診療から遠隔研究へ

 がんの臨床試験も、パンデミックによる制約に適応する必要があった。例えば、臨床試験のいくつかの側面、特にがんの予防と延命に焦点を当てた試験は、今やバーチャルで実施されていると、NCI地域コミュニティがん研究プログラム(NCORP)のAnn Geiger博士/公衆衛生学修士は説明する。

 臨床試験に参加するかどうかを判断できるように、試験に関する情報を患者に提供することは、おそらくバーチャルでできる最も簡単なことの1つであるとGeiger博士は述べる。このほか、生活の質(QOL)質問票の記入、経過観察、疼痛管理、診察および禁煙のための行動療法などの臨床試験の実施項目がバーチャルに移行している。

 一つの疑問は、遠隔診療が、例えば患者登録の迅速化など臨床試験の実施方法の合理化に役立つかどうかということである。

 「まだ答えは出ていないと思います」とGeiger博士。「非常に複雑な状況です。私の期待はもし患者さんの負担を減らすことができれば、つまり毎月来院する代わりに3カ月に1度の来院にすれば、患者さんはもっと……臨床試験に参加するようになるかもしれないということです。いずれ分かることでしょう」

遠隔診療のこれから

 電話やビデオによる遠隔診療のほかに、携帯電話などを使った患者の症状の遠隔モニタリングにも関心が高まっている。

 ユタ大学ハンツマンがん研究所の研究者らが主導した試験では、患者は遠隔監視システムを使用して、自宅で経験しているがん関連および治療関連の症状を定期的に報告した。症状を報告した患者には、引き続き気になる症状がある場合の対面での受診など、最適な対処法を指導する。

 この遠隔モニタリングは成功を収めている。患者の症状が大幅に改善されただけでなく、遠隔モニタリングを受けなかった患者よりも、自宅で、自分自身で上手く症状を管理できるようになった。

 将来、遠隔モニタリングが進歩すれば、血液試料を自宅で分析できるようになるなど、他の可能性も開けるかもしれないと、この試験の主任研究者を務めたKathi Mooney博士、正看護士は述べた。「そうなれば特に腫瘍の分野で役立つ可能性があります」。

 人工知能やバーチャルリアリティなどの新しいテクノロジーも、遠隔診療の限界を広げるのに役立っている。例えば、進行中のNCIの試験では、脳腫瘍の治療を受けている成人で、遠隔で配信されるバーチャルリアリティ技術がストレスの軽減と気分の改善に役立つかどうかを調べている。参加者は郵送されたバーチャルリアリティゴーグルを使ってリラックスできるシーンを鑑賞し、自分の症状に関する質問票に回答する。

 Friedman医師は、がんケアに遠隔診療が果たす役割は今後も進化し続けるであろう、と述べた。しかし、専門家の間では、遠隔診療と対面によるケアのハイブリッドになるであろうということで意見が一致している。

 同医師は「遠隔診療は定着しています」と述べた。「私たちは、もっと利用しやすく、もっと簡単にする努力を続けなければなりません」

 Alicia LaBonne氏は、娘の回復過程で遠隔診療が利用できたことに感謝している。「遠隔診療は今ではとても有用です」「私たちのような家族のために、これからも続いてほしいです」

NCI、がんケアでの遠隔診療研究に資金提供

 NCIのがん対策・人口統計学部門(DCCPS)の医療供給研究プログラムのRoxanne Jensen博士は、「遠隔診療の導入は急増していますが、導入は科学ではなく必要性に基づくものです」と述べる。「ケアの質と健康上の転帰を改善するために、スクリーニングや遠隔モニタリングのようながんケアサービスに焦点を当て、遠隔診療を独自に適用する方法を見いだすには、まだ多くの技術革新が必要です」

 遠隔診療を通じたがんケアの提供に関する重要な問題に答えるために、NCIはTRACE(遠隔医療研究センター・オブ・エクセレンス)と呼ばれるプログラムを立ち上げつつある。このプログラムでは、2022年夏から、遠隔診療に基づくがんケアの公平なアクセスと提供を確保することに焦点を当てた研究を実施する3つの「センター・オブ・エクセレンス(CoE)」に資金を提供する。

 また、DCCPSは、がん関連ケアでの遠隔診療の利用に関する試験の申請を募集するため、がんケアでの遠隔診療というテーマに特別な関心を示す通知を発表した。

 DCCPSの行動研究プログラムのRobin C. Vanderpool博士(公衆衛生学)によれば、がんケアでの遠隔診療に関する最近の試験は定量的になり、どれだけの人が遠隔診療を利用しているか、どのような人が最も利用しやすいかを検討しているという。博士は、NCIのこの新たな助成により、遠隔診療が患者の転帰、患者と医療従事者のコミュニケーションおよび医療の利用に及ぼす影響に関して多くの研究が進んでいくことを期待している。

 さらに、DCCPSは、2022年のウェビナーシリーズ「遠隔診療とがん:がん対策とケアの提供におけるその役割の検討(Telehealth and Cancer: Studying its Role in Cancer Control and Care Delivery)」を開始し、2月から6月まで開催する。

転載元 海外がん医療情報リファレンス

※m3.com編集部で一部変更

新型コロナウイルス特設ページ COVID-19

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