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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防・治療成績向上の一方で、院内感染防止の観点から、重篤な状態となったり、終末期と判断されたりした場合の家族との面会が厳しく制限される状況が続いている。面会制限による患者や家族、診療・ケアに当たる医療従事者の心身への負担は大きいことが分かってきた。オンライン面会など新しい取り組みが徐々に導入されつつあるが、withコロナ時代の終末期対応をどう考えていくのか。医療機関での模索が続いている。発生当初から重症患者を受け入れてきた大阪急性期・総合医療センター高度救命救急センターの西田岳史氏らは、多職種チームで自施設における重症患者の家族面会や看取りの制限緩和に向けた取り組みを続けている。第49回日本救急医学会学術集会での講演を中心に紹介する。(m3.com編集部・坂口恵)

COVID-19で起きた「全人的ケア」の機能不全

家族対応プロトコル遵守率は約10%

 「医療の進歩に伴い、治療だけでなく全人的ケアの重要性が高まってきた」と西田氏。国内外で集中治療室(ICU)や終末期における患者・家族ケアに関する推奨が盛り込まれ、実践されるようになっている。COVID-19流行により医療機関内の感染対策が強化されたのに伴い、重症患者・その家族とのコミュニケーションそのものが行えなくなったと振り返る。西田氏によると、COVID-19患者のABCDEFバンドル※のうち、「家族対応(F)」の遵守率は10%前後(Crit Care Explor. 2021; 3: e0353)に低下したとも報告されているという。また、対象患者や評価方法に違いがあるので単純比較は難しいが、コロナ禍以前の家族対応の遵守率は67%程度(Crit Care Med. 2017; 45: e1111-e1122)とのデータもあり、COVID-19流行が患者家族のケアにもたらした影響はかなり大きいと考えられる。

  • A:Awaken the patient daily: sedation cessation(毎日の覚醒トライアル)
  • B:Breathing: daily interruptions of mechanical ventilation(毎日の呼吸器離脱トライアル)
  • C:Coordination: daily awakening and daily breathing(A+Bの毎日の実践)、Choice of sedation or analgesic exposure(鎮静・鎮痛薬の選択)
  • D:Delirium monitoring and management(せん妄のモニタリングとマネジメント)
  • E:Early mobility and exercise(早期離床)
  • F:family involvement(家族を含めた対応)、follow-up referrals(転院先への紹介状)、functional reconciliation(機能的回復)

日本集中治療医学会公式サイト「ABCDEFGHバンドルとは」

初めての病状説明は亡くなる2日前、電話で

 西田氏らの施設でCOVID-19重症患者の看取りの問題が明らかになったのは、2020年3月頃。COVID-19患者受け入れの初期に発症から1週間で死亡した70歳代の男性患者で入院早期に人工呼吸管理となるなど、急速に病状が悪化した。「定期の病状説明もできず、救急医がご家族に初めて電話で説明できたのは患者さんが亡くなる2日前だった」(西田氏)。当時はオンライン面会のシステムもなく、入院中に患者と家族が意思疎通する機会も持てなかったという。「患者さんは入院前まで仕事をして元気な方だった。挿管前には『自分は死ぬわけにはいかない。孫もいる。何とか生きて帰らないと』と繰り返しおっしゃっていた」と西田氏。このときは患者が心停止した後に長女1人の直接面会が許されたが、病院に駆け付けた他の家族の面会はかなわなかった。

遺族の不安・抑うつ、PTSDの割合高く

 西田氏らはこの患者の死から半年後、長女にメンタルヘルス障害に関するアンケート調査を実施した。長女は不安、抑うつ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)いずれの項目も基準を上回り、「半年たってもまだ夢の中の出来事のようです」と回答するなど、メンタルヘルスへの影響が大きかった様子が見られたという。

 西田氏らは、自施設に入院した重症COVID-19患者家族のメンタルヘルスに関する前向き研究を実施した。不安症状・抑うつ・PTSDのうち少なくとも1つの症状を持つ家族は全体の50%に上り、亡くなった患者と生存退院した患者の家族の比較においては前者でより不安症状や抑うつ、PTSDを有する割合が高いことなどが明らかになった。

重症患者の患者・家族ケアの質を高める取り組み

週2回の定期電話連絡を開始

 重症COVID-19患者家族のケアの質を高めようと、西田氏らは医師、看護師、感染制御室のスタッフらから成る、多職種チームによる取り組みを開始した。まず着手したのが、医師・看護師による患者家族への定期的な電話連絡だ。男性患者には月・木、女性患者には火・金の週2回、定期的に病状説明を行うようにした。「実施により、患者の病状を家族と共有することで、家族の治療やケアへの理解が高まったり、家族の疑問や不安を直接聞いたりできるなどのメリットがあった」(西田氏)

 一方で、スタッフの労力や時間の負担がかかること、電話が遅くなってしまうなどの課題もあったそうだ。また、対面に比べ、家族の理解度やニーズの把握が難しいことも分かったという。家族へのアンケートでも、医師・看護師からの電話が良かったとの回答が7割から9割と高い評価を得ていた。西田氏は「中には家族が一人で自宅療養しているケースもあり、医療機関からの電話で安心したという声もあった」と話す。家族から指摘された課題としては「日によって電話の担当者が変わり、説明内容が担当者により異なっている気がした」「電話がなかなかかかってこないと、かえって不安になった」などがあった。

 この他、西田氏らが認識した課題としては「病状に変化があった場合は定期連絡とは別に電話連絡をする必要がある」「今後の課題として、陽性者の家族が別の病院に入院している場合の入院先と連絡を取り合うための連携」が浮かび上がった。

オンライン面会、全ケース・全看護師が「やってよかった」

 西田氏らが次に取り組んだのが、オンライン面会だ。既にいろいろな施設で導入が進んでいるが、同施設では原則患者のスマートフォンを利用してもらう方法を採用している。スマートフォンを持っていない場合は病棟で専用の携帯端末を準備することとした。LINEビデオやZoom、FaceTimeといったビデオ通話アプリを利用し、ビデオ面会を実現している。オンライン面会の実施に当たっては、事前の患者・家族への説明の他、録画・撮影を行わないことなどの同意書を作成し、進めている(写真)。

写真. 重症患者のオンライン面会の様子

(提供:西田氏)

 オンライン面会の家族の評価は高く、実施したケースの全てで「良かった」との回答が得られた。「画面越しに顔を見ながら声をかけられた、患者さんに家族の顔を見てもらって安心できた――といった声をいただいた。また、ご家族からもオンライン面会で治療に耐える気力を持ってもらえたという感想もあった」(西田氏)。一方、挿管されている様子や多数のデバイスにつながっている患者の姿を目にしたことが、家族にとってはショッキングだったという声もあったそうだ。

 看護師へのアンケートでも全員が「オンライン面会が必要だった」と回答しており、業務上の負担も電話による定期連絡と同様、「負担ではなかった」との声が多く、「患者さんに元気になってもらったり、家族からも安心したとの声をいただいたりして、むしろやってよかった」と好評だったことが分かった。

COVID-19重症患者、オンライン面会の注意点

 西田氏は「オンライン面会の実施に当たっては、個人情報保護について説明し、理解してもらうことが重要だ。また、オンライン面会をする際の注意事項、例えば撮影や録画を遠慮いただくことなどを事前に説明し、同意書を作成した上で実施するのが望ましい」と話す。また、「ご家族が治療中の患者さんの様子を想像するのは難しく、いざ目にすると衝撃を受ける方もいる。あらかじめ電話で状況を説明することが望ましい」との見解を示した。

 この頃には、家族が高齢などの理由で携帯端末を持っていない場合、家族が感染していないこと、あるいは濃厚接触者でないという条件を満たせば、同センターに来院の上、タブレット端末を用いてオンライン面会を実施できるようにした。

写真付きICU日記、工夫と注意点

 さらに、COVID-19流行以前は同施設で行っていなかった、写真付きのICU日記も患者や家族の希望に応じて作成する試みも開始した。日記は、看護師が勤務時間内の余裕があるときに適宜作成したという。また、負担軽減のため、レッドゾーンの看護師が患者の撮影を、グリーンゾーンの看護師が文章や冊子を作成するなど、役割を分担することとした。

 日記の送付に際しては、患者・家族に必ず電話で受け取りを希望するかをあらためて確認している。患者・家族へのアンケートでは回答者の大半が「送ってもらってよかった」との回答が得られた。中には「家族は日記を見ているが、当時のことを思い出したくないと本人は見ていない、というコメントもあった」と西田氏。ICU日記については患者・家族への説明や確認を作成前と後に行うことの他、「患者さんがお亡くなりになった際の日記の記載や取り扱いは慎重に行うことが必要」と説明した。

(つづく)

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