[ad_1]
東京都立川市の住宅街にある「立川在宅ケアクリニック」は、24時間365日対応の在宅緩和ケア専門のクリニック。2000年の開業以来、がん患者、非がん患者を合わせて4139人を看取ってきた。院長の荘司輝昭氏に、クリニックの特長や在宅診療医としてのターニングポイント、コロナ禍における在宅医療について話を聞いた(2022年5月31日インタビュー。計2回連載の1回目)。

荘司輝昭氏
――クリニックの概要について教えてください。
当クリニックは現在の理事長である井尾和雄先生(69歳)が、2000年2月22日に立川市に在宅緩和ケア専門のクリニックを開業したのが始まりです。開業当時は「在宅専門? それで食べられるの?」と周囲から言われていたそうですが、22年後の現在、開院当初からの当院の理念でもある「在宅で全ての疾患に緩和ケアを提供し看取る」ことが、まさに国の方針と一致しました。
現在の診療エリアは立川市を中心に近隣の昭島市、福生市、武蔵村山市、東大和市、小平市、国分寺市、国立市、東村山市、羽村市、あきる野市など、原則として半径16キロメートル、車で片道約30分圏内の市です。医師は、理事長、院長、副院長を含め常勤が5人、非常勤が3人、看護師の常勤が4人です。看護師はクリニック近隣のがん末期患者の訪問看護とクリニックでの面談を担当しており、訪問診療は医師が一人で行っています。ほかの地域の訪問看護はその地域の訪問看護ステーションと連携しています。
診療対象は、がんの終末期だけでなく、がんの治療継続中の方でも在宅緩和ケアを希望する方や、ALS、パーキンソンなどの難病の患者さん、脳卒中後遺症などで自宅療養中の患者さん、様々な障害で通院困難な患者さんまで幅広いです。また、医療としては疼痛緩和を含む全ての症状緩和、高カロリー輸液管理、人工呼吸管理、気管チューブ管理、経管栄養・胃ろう管理などを行っています。
――かなり重症度の高い患者さんも診ているのですね。
私は在宅医療と言っても、手術やMRI、CTなどの大きな検査以外、血液・尿検査や超音波検査なども含め、病院のベッドサイドと同じ医療が提供できると思っています。また、看護については訪問看護師が、薬については訪問薬剤師が、リハビリについては訪問理学療法士が行い、入浴は訪問入浴もあり、日常生活の援助はヘルパーが、いろいろな医療機器や福祉用具はレンタルサービス提供会社もあります。そして病院にはいないケアマネジャーというトータルにサポートを支えてくれる方もいて、今や在宅と言っても、ほとんど病院にいるのと同じ、いやそれ以上の手厚い医療・介護サービスが受けられます。
このように患者さんが住み慣れた自宅(場所)で、最大限何ができるか、何が必要かということに対して、きちんとした医療を提供しているのが、当クリニックの特長であると言えるでしょう。
――24時間365日体制を取っていますが、それを維持するのは大変ではないですか。
それはよく開業医の先生たちからも言われますが、当クリニックの医師は基本的に週休3日です。土日と夜間はオンコール体制を取っていますが、理事長、副院長は年齢的にオンコールの担当はありません。それでも常勤の医師たちは週1回のオンコール、月に1回の週末の当直、非常勤はスポットのオンコール、当直で回していますので、それほど大変というわけではありません。
また、日中の定時訪問診療時に、ご家族に「こういうことが起きたら、この薬を使ってください」という対処方法や、「今後、こういう症状が出る可能性があります」といった今後の見通しをしっかり説明しておけば、夜間に呼び出されることはほとんどなく、呼ばれるのはお看取りの時だけということが多いですね。
在宅患者の受け入れ状況・看取り状況(クリニック提供)
――ある雑誌の調査(※)によると、2020年7月から2021年6月における在宅看取り件数が283件で、都内で1位ということですが、その背景としてはどのようなことが考えられますか。
その雑誌のランキングが発表されるまで、当クリニックが都内で1位であることは全然知りませんでしたし、気にしたこともないです。ただ、年間300件近くの看取りがあるので、だいたい1日1回はお看取りしていることになります。
時々、「看取りばかりしている」と言われることもありますが、がん終末期の患者さんが多いこともあり、ある意味、そういう面もあるかもしれません。しかし、それ以上に、井尾理事長がここに在宅緩和ケアに特化したクリニックを開業して20年以上経ち、患者さんご家族や地域の医療機関から信頼されていることが大きいのではないかと思います。特に最近、地域の訪問看護師やケアマネジャーから「患者さんをお願いできませんか」と言われることも多く、地域から信頼を得られていることは、私たちとしてもとてもうれしいですし、誇りでもあります。
特に広告を出して宣伝したり、営業をどんどんかけているわけでもなく、定期的な訪問のほかに、24時間365日対応し、患者さんとご家族を最期まで支援するという、身の丈に合ったことを淡々と行ってきた結果だと思います。
※週刊朝日ムック『さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん 2020年版』(朝日新聞出版)より「在宅医療を行う都内診療所の『看取り件数』ランキング」
――「身の丈にあったこと」というと、具体的にはどのようなことですか。
経営的なことを考えれば、もっと訪問件数を増やすとか、患者さんの数を増やす方がいいのですが、忙しすぎるとどうしてもスタッフは疲弊してきます。当クリニックの患者さんは現在、平均して150人前後です。これは在宅の患者さんだけで、ここ数年は老人ホームや特別養護老人ホームなどの施設とは契約していません。当スタッフの人数で患者さんの背景まで把握して診るには、このぐらいの人数がちょうどいいと思っています。そのため経営としては、いつもギリギリですね(笑)。
もう一つの「身の丈」は、できることはやるし、無理なことは無理とお断りをすることです。私たち医療者側が頑張りすぎてしまうと、ご家族が疲れてしまいます。私の考えでは在宅医療というのは、医療・介護者の力は数パーセントで、ほとんどは家族の力だと思います。いかに家族を疲れさせないか、それが在宅医療が継続できるポイントだと考えています。
例えばがんの終末期であれば、ご家族にはある程度のゴールを示し、「今後、こういうことが起きてきます」と説明し、認識してもらうことで、ご家族もそこまでなら頑張れると思えるのではないでしょうか。認知症や寝たきりの高齢者ですと、在宅での期間は長くなりますが、そういう場合はショートステイを利用したり、レスパイト入院を使いながら、ご家族に少し休んでいただきながら、ご家族と一緒に患者さんをケアしています。
【荘司輝昭・立川在宅ケアクリニック院長に聞く】(2022年5月31日にインタビュー)
Vol.1 在宅看取り件数都内有数のクリニックは週休3日制
Vol.2 「救急車を呼ばない」在宅看取りには医師の覚悟が重要(近日公開)
◆荘司 輝昭(しょうじ・てるあき)氏
1991年に杏林大学医学部卒業、1997年に杏林大学大学院を修了する。杏林大学病院外科のほか、東京都監察医務院にも非常勤で勤務する。2012年に立川在宅ケアクリニックに入職し、2016年より現職。外科専門医、日本在宅医療連合学会・指導医/専門医。また警視庁嘱託医として多摩地区の検視を担当する。
【取材・文・撮影=藤田記子】
[ad_2]
Source link