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 福島県立医科大学の山中克郎氏がセンター長を務める奥会津在宅医療センターは、奥会津西部の3町1村で訪問診療・訪問看護を行っている。急性期疾患や慢性疾患の診療、寝たきり老人への訪問医療、看取りなどに加え、健康増進教室やワクチン接種など幅広い活動を展開しており、地域住民の頼れる存在だ。今回は、山中氏に近隣医療機関との連携や、現在の課題と取り組みなど話を聞いた(2022年5月30日インタビュー。計2回連載の2回目)。

奥会津在宅医療センター長の山中克郎氏

――年中休みなく患者を見守る奥会津在宅医療センターは、人生の最期を自宅で迎える「看取り」も支えていますね。

 従来この地域では、終末期などで濃厚な医療が必要になった場合、入院後に自宅に戻ることなく亡くなる方がほとんどでした。しかし、私たちはがん終末期の緩和医療も行っており、自宅で家族に看取られながら亡くなる患者さんにも立ち会っています。

 実は同じ患者さんでも、病院で見る姿と家にいる姿が全然違うことがよくあります。家に帰った方が元気になるんですね。以前、組合立諏訪中央病院で在宅医療をしていたとき、「こんな状況で家に帰して大丈夫か」と思った患者さんに後日、訪問診療でお会いすると、意外に元気だったので驚いたことがあります。自宅に戻ると生きる力が増すと実感しましたね。在宅で看取ることで、ご家族や親戚が患者さんに感謝の言葉をかけることができ、本人も皆さんもとても満足されていたという話もスタッフから聞きました。

――在宅医療の他にも、さまざまな活動を行っています。

 COVID-19ワクチン接種はスタッフが頑張ってくれたおかげで、奥会津は福島県内の中でも3回目まで早く接種を終えることができました。集団接種に加え、訪問診療の際に患者さんやご家族の接種も行いました。4町村住民の3人に1人が奥会津在宅医療センターによる接種です。

 高齢者の転倒予防のために筋力アップの指導をする健康増進教室も開いています。高齢者が骨折から寝たきりになって誤嚥性肺炎で亡くなる例は多く、骨折した高齢者の1年後の死亡率は約10%と言われています。予防に勝る医療はないということで、3カ月に1回ほどのペースで開催しているのですが、毎回30~40人ほど集まりますね。

 また、地域医療をテーマにした授業を高校生を対象に行っています。内容は都市部と地方の医療格差や在宅医療の意義、地域医療に求められることなど。中学生が訪問診療・訪問看護に同行したり、県立宮下病院を見学する企画を実行したこともあります。

COVID-19ワクチンの集団接種

――近隣の医療機関である県立宮下病院とは、どのように協働していますか。

 県立宮下病院の常勤医師に私の古くからの友人がいることもあり、積極的にコミュニケ―ションを図っています。我々の在宅医療では、例えば患者さんが重症になって入院が必要と判断した場合、まずは宮下病院で受け入れてもらえるかどうかが肝心です。良い関係性のおかげで快く引き受けてくれ、患者さんの入院期間もできるだけ短く、在宅医療の方に帰してくれています。この入院期間が短いのが大事です。高齢者は入院期間が長くなるほど筋力が低下し寝たきりになってしまいますから、なるべく早く在宅に戻してもらえるのはとてもありがたいですね。

――独自のユニークな取り組みも行っているそうですね。

 福島県立医科大学会津医療センターに在籍する鍼灸師の先生に、週に1回在宅医療に同行してもらっています。先生が在宅医療にとても関心をお持ちだったのでお声がけしました。鍼灸は体の痛みやしびれを取るのはもちろん、下痢や便秘を治すこともできるのです。膝が痛い、肩が痛い、腰が痛いという高齢者に、西洋医学だと痛み止めや湿布を出しますが、高齢者が痛み止めを飲むと心不全や胃潰瘍、腎臓の機能低下などの副作用の心配があります。でも鍼灸はほとんど副作用がありませんから、薬に頼らない治療法も行いながら患者さんの健康を守っていくことができるんです。鍼灸は住民の皆さんに評判が良く、スタッフも自分自身が鍼灸治療を受け効果を実感したようで、患者さんにも勧めやすいそうです。

――奥会津在宅医療センターの今後の課題と、解決のためのアクションを教えてください。

 県の補助金が終了する2年後に県立宮下病院が事業を継承し、センターは病院の一部門になります。我々も病院スタッフとして改めて雇用されセンターの運営を続けるのですが、もともとの病院スタッフも交替で在宅医療を担当することになります。不安に思う方も当然いると思いますから、今以上に宮下病院のスタッフとの交流を増やし、この活動を理解してもらうことが不可欠だと思っています。

 広い地域に患者が点在しているので、ICTの活用を進めていくことも重要な課題です。そこで、共通のクラウドに患者情報を預け、伝言板のように地域の診療所や高齢者施設、ケアマネージャーが簡単にアクセスできる多職種連携情報共有システムを導入しました。その患者さんが今までどんな治療を受けてきたのか、最近は誰が担当してどんな問題があるのかなどが瞬時に分かるので、より的確な診療や治療を行うことが可能になっています。

 また、患者さんがどういう最期を送りたいか、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)、人生会議とも言われますが、そういうことを診療時にお聞きして、希望に沿ったエンディングが迎えられるようお手伝いしていきたいとも思っています。

 そしてやはり一番大きな課題は、地域医療への情熱を持った新しいスタッフをどうやって集めるかということです。今はモチベーションの高いスタッフが集まっていますが、持続させていくためには新しい人に入ってもらいたいですし、誰かが抜けることになった場合どうするかの問題もあります。センターの存在が広まってきたことで、興味を持った方から連絡が来たり、SNSでスタッフ募集の告知をしています。

――これからの医療を支える、若手医師の加入が求められているのですね。

 週に1回の私の訪問診療の中で、福島県立医科大学や自治医科大学の学生、研修医が見学に来ることがあるのですが、在宅で患者さんを診る経験にとても感動しています。将来、一緒に働きたいという人が出てくれればいいですね。奥会津は景色がきれいで、ローカル線も雰囲気があって、本当に素晴らしい土地です。学生や研修医が来たときは、そうした魅力を伝えるのはもちろん、なるべく地元の美味しいものをごちそうすることにしているんですよ(笑)。

――山中先生ご自身の今後の抱負を聞かせてください。

 あと5年は会津にいるつもりで、その間にセンターの事業を持続的なものにすることが第一の目標です。在宅医療はこうすればうまくいくという、モデルケースの確立にもつながります。また、若手の医師、医学生の教育に関心がありますので、できるだけ彼らを在宅医療の現場に連れてきて、患者さんに寄り添う昔ながらの心優しい医療、エビデンスに基づいた治療をするということを自分が実践しながら彼らにも教えていきたいと思っています。

――では最後に、若手医師の皆さんに期待を込めてメッセージをお願いします。

 若手医師は早く専門医になりたいので、症例を多く診ることができる都会の大病院にどうしても集まりがちです。ですが実際の医療は大病院だけではありません。医師人生のある期間だけでも、医療資源が全くないような、だけど住民との絆が非常に深い、そんな環境の中で医学を学んでほしいなと私自身は願っています。きっとそれは医師人生の中で大きなプラスになる。専門医を目指すにしても、より広い土台の上に高い山が築けるんじゃないかと思いますね。

【山中克郎・奥会津在宅医療センター長に聞く】(2022年5月30日にインタビュー)
Vol.1 県の補助金獲得で在宅医療の常駐チームを結成
Vol.2 「医師人生の中で大きなプラスになる」ある期間だけでも働いてほしい場所

◆山中 克郎(やまなか・かつお)氏

1985年、名古屋大学医学部卒業。名古屋掖済会病院、名古屋大学病院免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学救急総合内科教授/救命救急センター副センター長、諏訪中央病院総合診療科院長補佐を経て、現在は福島県立医科大学会津医療センター総合内科教授。

【取材・文=荒川慎司(写真は奥会津在宅医療センター提供)】

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