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がん消滅の罠 暗殺腫瘍の謎
がん消滅の罠 暗殺腫瘍の謎』(岩木一麻/宝島社)

 ミステリーファンの間では定評のある『このミステリーがすごい!』大賞の15回(2016年)大賞受賞作『がん消滅の罠 完全寛解の謎』(岩木一麻/宝島社)。幾重にも仕掛けられたトリックと「最先端がん治療」が結びついた異色の医療ミステリーは大きな注目を集め、TVドラマ化もされた。2021年には続編『がん消滅の罠 暗殺腫瘍』が刊行され、現在「がん消滅の罠」としてシリーズ化。累計47万部を超える大ヒットを記録している。このほどそのシリーズ2作目『がん消滅の罠 暗殺腫瘍』が宝島社文庫から『がん消滅の罠 暗殺腫瘍の謎』として待望の文庫化。より手に取りやすくなったいまこそ、本シリーズ未体験の方もどっぷりハマるチャンス! だ。

 がんと診断されると未払いの住宅ローンの支払い義務がなくなる「がん団信保険」を契約したあと、上限に近い1億円の物件で住宅ローンを組み、ほどなくしてがんと診断。しかもいずれも珍しいメラノーマという皮膚がん……どうにも都合のいい事例が5件も続けておきたことを不審に思った大手保険会社勤務の森川は、友人の日本がんセンターの夏目医師と羽島博士に協力をあおぎ独自の調査をはじめる。時を同じくして埼玉県内では連続医師殺人事件が起こり、警察がマークしている人物の関係者として、夏目のもとに刑事が話を聞きにやって来る。さらには「がんで命を奪う」と脅迫を受けた政治家まで夏目に助けを求めにやってきて――。

 一見関係がないようにも思える3つの事件の背後には、次第に「代替医療の闇」が見え隠れしはじめる。「人工的に人をがんにさせられるのか?」という大きな疑問をキーに、夏目たちは謎の解明に突き進む。

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 著者の岩木一麻さんは、かつて国立がん研究センターでがん研究をしていた経歴を持つだけに、作中に登場するトリックにはがんの最新の専門知識がふんだんに盛り込まれる(とはいえ作者はわかりやすく噛み砕いた説明を織り込んでくれていて、素人でもちゃんとついていけるのでご安心を)。さらには一般の人が目にする「診察室」だけではない「研究」といった医療世界の幅広さ、深さも知ることができるのも新鮮。医療ミステリーとしての完成度の高さと最後の最後まで安心できない展開を持つ本作は、このミス大賞受賞の1作目に続き、多くの批評家たちを唸らせたという。

 なお前作に引き続き物語の中心となるのは、医師としての倫理観をつらぬき、ひたむきに前に進む夏目、名探偵さながらに謎解きの大きなヒントをもたらす羽島、謎と情報の提供者である森川という3人の同級生コンビ。「がん」という病がテーマだけに常に「死」が見え隠れし、さらには「医者=人の命を救う」という通念が崩壊していく物語世界には重さがあるが、3人の同級生が互いを信頼しあい、軽口をたたきあいながらそれぞれが「正しい」と思うことに邁進していく姿は頼もしく、「人を信じられる」ということの大切さを発見するようで救われる。

 事件の背後には闇落ちした先輩も蠢き(そのあたりはネタバレではなく、物語の冒頭からはっきり表されている)、医者という世界の底知れぬ闇のようなものを見る思いがしてゾクっとするのは間違いない。さらに本作のラストはまだ物語は続く余韻にあふれ……この先、どんな最先端の命のやり取りが出現してしまうのか、怖いけれど早くも楽しみだ。

文=荒井理恵



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