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新築の病棟に設けられたお見送りのための玄関=滋賀県近江八幡市のヴォーリズ記念病院で

 入院患者が亡くなった際、医師や看護師らが院内で「お別れの会」を開き、玄関から送り出している病院が、滋賀県近江八幡市にある。これまで緩和ケア病棟(ホスピス)だけで行っていた試みを今月から全病棟に拡大。一般的に病院で亡くなった人は裏口などからひっそりと運び出されることが多いが、担当者は「患者の人生の最終章にかかわったチームとして見送ることは、家族だけでなく医療者のグリーフ(悲嘆)ケアにもなる」と話す。 (五十住和樹)

■玄関で見送り

 九月下旬、同市のヴォーリズ記念病院。約一カ月前に末期の消化器がんでホスピスに転院してきた八十代女性が亡くなった。主治医の細井順さん(71)によると、二人の息子が同席して看取(みと)りを終え、看護師がエンゼルケア(死後の処置やメーク)をした後、息子たちも手伝って「お気に入りだった」というブラウスとスラックスを着せた。

 別の部屋にベッドを移してお別れの会が始まると、細井さんが病気の経緯や入院中の様子などを説明。「新型コロナ対策で週一回のリモート面会という状況でも家族から元気をもらっていた」と女性をしのんだ。看護師も「感謝の言葉をいつも口にしていた」と語り、女性が病室の鉢に植えた苗に小さな紫色の花が咲いたエピソードを紹介。息子たちがお礼を述べ、牧師が祈りをささげて約十五分の会は終わった。

 入院生活を支えたスタッフらが玄関に集まり、白い布にくるまれて病院を出る女性を見送った。女性には鉢植えの花や庭の花で作った花束が添えられていた。「(女性は)転院当初、畑仕事ができない、しんどいと嘆いてばかりだった」と細井さん。毎日話を聞くうちに「自分なりに生きた。いい人生だった」と話すように。細井さんは「それを聞いて医者としてホッとした」と振り返る。

■医療者も成長

 同病院は一九一八年、結核療養所として開設した。現在の病床数は一般が五十床、療養が百二床、ホスピスが十六床。ホスピスはがんとエイズ(後天性免疫不全症候群)の患者が対象で、二〇〇六年にオープン後、患者が亡くなった際にはお別れ会を開いてきた。

 「がん末期の体や心の痛みを軽減し、『私の人生これでよかった』と思ってもらえる関わりをするのが緩和ケア」。病院事務長の沢谷久枝さん(66)は説明する。「医療者は患者の姿から学ぶことで成長する。医療者と患者の関係が、人と人とのつながりになる」

 こうして患者に寄り添う「ホスピスマインド」を広げようと、同病院は老朽化による移転新築を機に今月から、お見送りのための新しい玄関を開設。ホスピス以外の病棟の希望者もお別れの会を開いて送ることにした。会には薬剤師や管理栄養士など患者に関わった多職種の人が可能な限り参加する。「昨日とは違う生活が始まる遺族の心を大切にする、病院側の“おもてなし”です」と沢谷さん。

 医療現場は患者の治療に追われる日々。亡くなった患者を前に敗北感を覚える医師は多い。かつて大学病院の消化器外科医として手術を重ねた細井さんもそうだった。「急性期病棟ではホスピスマインドの浸透は難しい」と言う。

 「だからこそ、この取り組みを進めるべきだ」。大阪大名誉教授でホスピス財団理事長の柏木哲夫さん(83)は強調する。「ホスピスマインドを病院全体で共有しているというメッセージになる。病院で死亡した人を医療者が皆で温かく送り出すシステムは、遺族にも医療者にも価値がある」



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