[ad_1]
「患者のため」から「患者と共に」へ−。医薬品開発の初期段階から患者の視点を生かす試みが製薬業界で進んでいる。国内の大手4社は協力して9月から、患者と研究者らの交流会「ヘルスケアカフェ」を開始。これまで把握できなかった患者の要望を捉え、革新的な医薬品の開発につなげたい考えだ。 (佐橋大)
九月末、神奈川県藤沢市の創薬研究施設「湘南ヘルスイノベーションパーク」に、聴覚障害者四人と家族、製薬会社の社員六人らが集まった。「聴覚障害」をテーマにした第一回のヘルスケアカフェ。世界の総人口の5%が聴覚障害者と対象者が多く、薬の研究開発も進んでいることから、武田薬品工業(東京)が中心となって企画した。
この日はまず、人工多能性幹細胞(iPS細胞)によって動き始めた遺伝性難聴の薬の開発について、順天堂大医学部の神谷和作准教授(耳鼻咽喉科学)がオンラインで講演。遺伝性難聴の半数が一つの遺伝子変異によって起きていることや、iPS細胞から再現した患者の内耳細胞を使って、遺伝性難聴に効く薬を探す研究が進んでいることなどを紹介した。治療法は未確定だが、鼓膜を介して内耳に薬を注射する方法が考えられるという。
その後、聴覚障害者らと社員らが対話した。遺伝性難聴の男性は「内耳への注射も、治療効果と通院頻度によっては受け入れられる」と発言。「治療がライフスタイルに合うかが第一。頻繁な通院で離職すれば、生活の質が上がったとは言えない」と、生活への影響の少ない治療法にしてほしいとの要望を伝えた。
男性は補聴器を使っても、音の方向や周囲の環境によっては聞き取りにくいことも説明。遺伝性難聴の女性は「補聴器は家では疲れるので外す。電話やインターホンの音に気付かない」と話し、聞こえ自体を改善する薬への期待を寄せた。
社員からは「飲み薬でないと受け入れられないと思っていたが、注射も条件次第で受け入れられるというのは意外だった」「創薬の必要性を感じた」といった声も。やりとりは第一三共、協和キリン、参天製薬の三社も含む社員約五百人が各職場などからオンラインで聞いた。カフェは今後一〜二カ月に一回ほど開いていく予定で、十二月の二回目は「がん」、来年一月の三回目は「視覚障害」をテーマにするという。
武田薬品工業によると、これまで新薬の開発で患者が関わるのは、薬の有効性や安全性を調べる最終段階の臨床試験だけで、成分を探すなどの初期段階から参加してもらうことはほとんどなかったという。リサーチニューロサイエンス創薬ユニット主席部員の國貞理恵さんは「患者のニーズに合った薬をつくり出すきっかけにしたい」と話す。
患者側からも歓迎の声が上がる。働く世代のがん患者を支援する一般社団法人「CSRプロジェクト」(東京)代表理事で、患者の研究参画にも詳しい桜井なおみさんは、がん治療と仕事の両立を目指す患者が求める薬と製薬会社の目指すものとのずれを感じることがよくあるという。「そのずれをなくすには、開発の初期段階から一緒にやっていくことが非常に重要」と強調する。
桜井さんによると、患者の声を創薬に生かす動きは、欧米では、エイズウイルス(HIV)の治療薬の開発を契機に一九九〇年代から始まった。初期段階からの参画も世界的な流れだが、経験の蓄積はまだこれからだ。「患者のニーズは、年齢、性別、居住地、職業などによって違う。製薬会社から意見を求められた場合、自分以外のニーズをどこまで聞いて、どう伝えていくのかが患者側の課題。製薬会社側も、目的を明確にして話を聞かないと、いい話し合いにならない」と桜井さん。「患者から聞いた話をどう生かしたのか、フィードバックもしてほしい。たとえ薬に結び付かなくても、その姿勢が患者たちの励みになる」と期待を寄せる。
[ad_2]
Source link