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血液のがんの一つである「悪性リンパ腫」についての理解を深めてもらおうと、市民公開講座「血液のがん 悪性リンパ腫のこと 〜症状を知り、早めの受診を」が、11月27日(日)にオンラインで開催されました。近畿大学医学部 血液・膠原病内科学 主任教授の松村到先生とフリーアナウンサーの木佐彩子さんの司会のもと、3人の医師が登壇。それぞれの講演とQ&Aコーナーを通して、誰でもかかる可能性がある悪性リンパ腫について詳しく解説しました。その模様を採録形式でご紹介します。
【挨拶】
近畿大学医学部 血液・膠原病内科学 主任教授
松村到先生
本日の市民公開講座で取り上げるテーマは、血液のがん「悪性リンパ腫」です。今や日本人の2人に1人ががんになる時代ですが、実は日本人がかかる血液がんの中で最も多いのが、悪性リンパ腫です(*1)。
誰でもかかる可能性のある悪性リンパ腫とはどういう病気なのか、早期発見のためにはどんな症状に気をつけるべきなのか、そして、医師へ症状をうまく伝えることやコミュニケーションのポイントについて、専門の医師たちが詳しく解説します。この病気に対する理解を深めることで、みなさんの健康にぜひ役立てていただきたいと思います。
【講演1】 血液がん・悪性リンパ腫とは?
国立病院機構 大阪医療センター 血液内科科長 輸血療法部長
柴山浩彦先生
毎年3万人以上が新たに発症
腫瘍性血液疾患、つまり血液のがんにはたくさん種類があります。その中で “三大血液がん”と呼ばれているのが「白血病」、「多発性骨髄腫」、そして本日のテーマである「悪性リンパ腫」です。それぞれどれくらいの人が罹患しているかを2021年のデータで見ると、白血病が男性8500人・女性6000人、多発性骨髄腫が男性4300人・女性3700人、悪性リンパ腫が男性1万9700人・女性1万7100人となっており、悪性リンパ腫に罹患される方が男女ともに最も多くなっていることがわかります(*1)。
一方、悪性リンパ腫でお亡くなりになった方は男女合わせて1万3786人。悪性リンパ腫と診断される方のうち、残念ながら約4割の方が亡くなられているのですが、多発性骨髄腫が約5割、白血病では約6割の方が亡くなられている(*1)ことを考えると、生存率は少し高いと言えるかと思います。
毎年3万人以上が新たに発症している悪性リンパ腫は、日本人に一番多い血液のがんです(*1,2)。生涯にわたってどれくらいの割合でかかるのかというと、男性の場合は43人に1人、女性の場合は50人に1人(*1,2)。ちなみに、白血病は男性の場合が95人に1人、女性の場合が130人に1人となっています。
リンパ球ががん化する、血液のがん
血液中には、「赤血球」、「血小板」、「白血球」などそれぞれ異なる役割を持つ細胞が含まれています。これらの大元の細胞が、骨髄の中にある「造血幹細胞」です。また、白血球の中には「リンパ球」や「好中球」と呼ばれる細胞もあります。これら血液の細胞に、何らかの原因で遺伝子の異常が起こると、血液のがんになります。
悪性リンパ腫は、その名前が示すように、白血球の中のリンパ球と呼ばれる細胞である、「B細胞(リンパ球)」、「T細胞(Tリンパ球)」、「NK細胞」などに遺伝子の異常が起こって発症します。がん化したリンパ球は無制限に増殖し、リンパ節やリンパ組織に塊を作ったり、さまざまな症状をもたらしたりします。また、がん化したリンパ腫の細胞は血液中を流れたり、骨髄に浸潤したり、その他の臓器で塊を作ることもあります。
特定のウイルスや菌の感染が原因で起こる特殊なケースを除いて、基本的に悪性リンパ腫の原因は不明です。従って、効果的な予防法もわかっていません。ただ、年齢が上がると、どうしてもリンパ球に遺伝子の異常が蓄積されていくため、加齢が原因の一つだろう、と考えられています。
悪性リンパ腫の病型は70種類以上
悪性リンパ腫は、リンパ腫細胞の形態や性質によって70種類以上のタイプ(病型)に分類されます(2017年、WHO分類)。大きくは「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」に分類されますが、そのほとんどは非ホジキンリンパ腫です。
非ホジキンリンパ腫の中で一番多いのが全体の約4割を占める「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」です(*3)。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は月単位で進行します。その次に多いのが「濾胞性リンパ腫」で、2割弱くらいになります(*4)。これらは進行の度合いによって、年単位でゆっくり進行する「低悪性度」、週単位で進行する「高悪性度」、その中間の「中悪性度」の三段階に分けられます。さらに、ステージ(病期)と呼ばれる、リンパ腫細胞の広がりの程度によっても分けられます。
悪性リンパ腫は、日本人がかかる血液のがんの中でも最も頻度が高いのですが、70種類以上に細かく分類されるため、その病型や病期によって診断や治療の仕方が変わってきます。その特徴をぜひご理解いただきたいと思います。
【講演2】 悪性リンパ腫の色々なこと
筑波大学医学医療系 血液内科 教授
坂田麻実子先生
気になる症状は、かかりつけ医に相談を
もし、あなた自身、あるいはあなたの身の回りの方にこんな症状があった場合には、悪性リンパ腫の可能性があるかもしれません。まずは、日頃からかかっている医師、かかりつけ医に相談するようにしてください。
初発症状として多いのは、(リンパ節の腫れなどによる)しこりです。できやすい場所は首や脇の下、太ももの付け根などですが、それ以外の場所にできることもあるので注意が必要です。また、リンパ節の腫れは、悪性リンパ腫以外の疾患でもできる可能性があるため、その腫れがいつ頃からあるのか、痛みはあるか、熱感はあるか、一カ所だけなのか全身にあるのかなど、細かい状況をしっかりと医師に伝えることが大切です。
それ以外の症状としては、原因不明の高熱や体重減少、ひどい寝汗などがあります。ダイエットによる体重減少や多少の寝汗は自然なことですが、思い当たる節がないのに、体重減少やひどい寝汗が続く時は、病気のサインかもしれません。かかりつけ医にご相談することをおすすめします。
確実な治療には正確な診断が必須
悪性リンパ腫かどうかを診断するための検査には、「一般的な検査」と「広がりを見る検査」、そして「確定診断」があります。
一般的な検査の基本は、問診と診察です。問診と診察では、リンパ節の腫れやしこり、発熱や体重減少、寝汗など患者さんご自身が気づかれている症状の詳細と既往歴について伺います。併せて行われる血液検査では、赤血球や白血球、そして血小板の数や大きさ、LDH(乳酸脱水素酵素)やsIL-2R (可溶性インターロイキン2受容体) などの数値を調べ、悪性リンパ腫の可能性をチェックします。
広がりを見るために行われるのは、CT検査や超音波検査、PET検査などの画像検査です。症状などに応じて、さらに消化管内視鏡検査、あるいは骨髄検査、髄液検査などを行う場合もあります。
悪性リンパ腫の確定診断に欠かせないのが、組織生検です。中でも最も重要なのは、病変が疑われる場所の一部を切り取り、がん細胞の有無を顕微鏡で調べる病理組織検査です。悪性リンパ腫の確定診断は、このような組織生検や臨床情報、画像情報などを組み合わせて行われるため、結果が出るまでに数週間ほど時間が必要になってきます。
治療方針は、確定された悪性リンパ腫の種類と病期(ステージ)、全身状態、年齢などを考慮した上で決定されます。治療は「薬物療法」、「放射線療法」、「手術療法」、「造血幹細胞移植」などを組み合わせて進めていくことが多くなっていますが、種類によっては積極的な治療は行わず、注意深い経過観察だけを行う場合もあります。
種類によって異なる生活上の注意点
患者さんやそのご家族が気にされるのは、やはり治療中の生活上の注意点だと思います。抗がん剤などを使った化学療法中は、どうしても白血球が減少してしまうので、感染症のために急に高熱が出てしまう場合や、救急で受診が必要な場合もあります。悪性リンパ腫の治療の種類によっては、生活上の注意点も異なりますので、担当の先生とよく相談していただくことが大事だと思います。
治療によって、悪性リンパ腫による病変が消失する「寛解」状態になった後も、一定期間は定期的な通院が必要です。通院の頻度や採血、画像検査の必要性は、病気の種類や寛解状態などによって異なります。担当の先生とよく相談しながら、治療終了後もしっかりと経過観察を受けていただきたいと思います。
【講演3】 医師とより深く話し合うために
国立がん研究センター 先端医療開発センター 精神腫瘍学開発分野長
小川朝生先生
患者さんの心理的不安をケア
私が携わっている「精神腫瘍学(サイコオンコロジー)」というのは、がん患者さんやそのご家族の治療に対するさまざまな心理的不安に、精神医学の立場から対応する領域になります。
私どものところへ患者さんが来られるきっかけで最も多いのは、「眠れない」という悩みの相談です。がんの治療中は、体の負担だけでなく、仕事や人間関係などに関するストレスを抱える方も少なくありません。その結果、多くの方が不眠に悩まされます。他にも「がんに関するさまざまな情報とどう向き合えばいいか」、あるいは「家族と病気のことをうまく話し合えない」など、心の悩みやストレスを抱える患者さんは決して少なくありません。患者さんの精神的な負担やストレスは、治療を進める上では障害になるため、少しでもその負担を軽くする必要があります。患者さんやそのご家族が抱えるさまざまな困りごとに対応する領域、それが精神腫瘍学です。
患者側と医療側の信頼関係が重要
がん治療では、医師や看護師を含めた医療者側と、患者さんやそのご家族側との信頼関係がとても重要になってきます。互いの信頼関係を築くには、やはりコミュニケーションが欠かせません。特に、最近はいくつかの治療法を組み合わせて進める時代になってきているため、治療に対する疑問や不安もより多くなってきます。その一つひとつに対して、丁寧に確実に対応していくということが、安心・確実な治療につながっていきます。そのためには、医療者側が正確な情報を提供するのももちろん大事ですが、患者さんやそのご家族が、病気や治療についてどのように思っているのか、あるいはどんな不安を持っているのか、などについて声を出していただくことが重要です。
増えている、がん患者・家族へのサポート
これまで、がん治療は当事者である患者さん・ご家族だけの問題だとされてきましたが、今ではがん患者さん・ご家族へのさまざまなサポート体制が整備されるようになってきています。治療をサポートしてもらえる場所や機関をいくつか使えるようにしておくことも、治療中や治療後の生活の大きな助けになると思います。
がん診療連携拠点病院にあるのが、ちょっとした相談にもすぐ対応できる「がん相談支援センター」です。先ほどお話しした心と体の連携するような領域に関する悩みに対応する「精神腫瘍科」や「緩和ケアチーム」などもあります。また、各地域のがん治療に関する情報を集約したポータルサイトを用意している地方自治体も増えています。さらに、整備が進んでいるのが「ピアサポート」です。ピアサポートは、さまざまながん治療を経験した方々が、ご自身の経験を他の患者さんたちに活かせる形で提供する取り組みです。病院の利用の仕方や医師とのコミュニケーションの仕方など、より具体的な情報に触れることができるため、治療に対する自分の考えを整理したり、工夫の引き出しを増やしたりすることができる、一つの大きなサポートになると思います。
病院は治療を受ける場としてだけではなく、治療に必要なさまざまな情報を得たり、サポートを知ったり、というきっかけの場にもなっています。がんの治療やその後の生活というのは、多くの方にとっては初めての体験です。不安を抱いたり、悩まれたりすることも多いでしょうが、今はがん患者さんとそのご家族を支える場所や仕組みが充実してきています。大いに活用しながら、治療に臨んでいただきたいと思います。
【Q&Aコーナー】
Q&Aコーナーでは、日頃からよく寄せられる悪性リンパ腫に関する質問について、登壇した3人の医師たちが回答。悪性リンパ腫は早期発見・早期治療が重要であること、そのためには気になる症状は早めにかかりつけ医に相談すること、そして患者側と医療従事者側とのコミュニケーションが大切であることなどを学びました。
【質問①】
悪性リンパ腫にかかりやすい人や、かかってしまうリスクを高める生活習慣などはあるのでしょうか?
柴山 特殊な例を除き、悪性リンパ腫の原因ははっきりしていません。すでに悪性リンパ腫になってしまった患者さんのデータからわかることとしては、70歳代が発症のピークであること、男女比は3:2の割合で男性が多いこと、そして、かかる人の数は年々増加していること、などの特徴があります(*5)。
木佐 患者さんが増えている背景には、高齢化の影響もあるのでしょうか。
柴山 高齢になると、どうしても遺伝子の変異が積み重なってくるため、悪性リンパ腫を含め、いずれのがんも発症しやすくなってくると言えるでしょう。ただ、気になるデータもあります。高齢化の影響を取り除き、純粋にどれくらい各がんの患者さんがいるかを表した「年齢調整罹患率」というデータがあるのですが、それを見ると、男性も女性も悪性リンパ腫の患者さんの数はだんだん増えています。これは、高齢化とは関係のない何らかの因子によって、患者さんが増えている可能性を示しています。ただし、何の因子なのかは現時点では不明です。
木佐 そうなると、私たちはどのようなことに気をつけて生活すればよいのでしょうか。
柴山 悪性リンパ腫にかかる原因が不明である以上、その問いに答えるのはなかなか難しいですね。やはり、普段から気になる症状はないかを気にかけ、異常を感じたらすぐに病院で診てもらう、というのが重要だと思います。
【質問②】
悪性リンパ腫は遺伝するのでしょうか?
柴山 すべてのがんは遺伝子の異常がきっかけで発症します。悪性リンパ腫の場合、一部のウイルス感染によるものを除き、その原因は不明です。そのため、私たち医師は患者さんに説明する時には「遺伝はしません」とお伝えしています。
木佐 みなさん家族間の遺伝が心配なのだと思いますが、その可能性は低いということですね。
柴山 そうですね。日本で行われた最新の研究では、ごく一部の悪性リンパ腫には遺伝的要因が関わっているということが明らかになっています(*6)。ただ、これらの遺伝子の異常は他のがんを起こすきっかけにもなるもの。つまり、悪性リンパ腫に特化した遺伝子ではありません。これらの遺伝子の異常がたまたま見つかっても、過度に心配する必要はありません。
木佐 その研究結果によって、悪性リンパ腫の治療は変わるのでしょうか?
柴山 基本的には変わりませんが、これらの遺伝子をターゲットにした治療が今後成り立つ可能性はあります。今後の研究の進展が期待されるところだと思います。
【質問③】
悪性リンパ腫は、人間ドックでは見つからないのでしょうか?
柴山 人間ドックには、悪性リンパ腫に特化した項目は基本的にありません。ただし、医師の触診や腹部エコー検査でリンパ節や内臓の腫れやしこりが見つかり、悪性リンパ腫だとわかることはあります。
木佐 人間ドックで行われる一連の検査だけでは、悪性リンパ腫は見つけられないということでしょうか?
柴山 悪性リンパ腫は、患部を切り取って生検をしなければ診断できません。つまり、人間ドックで行われる検査だけでは、異常があってもそれが悪性リンパ腫によるものなのかどうかはっきり判断できない、ということです。もちろん、たまたま他の疾患に関する検査項目で異常が見つかり、早く診断ができたという場合もあるかもしれません。悪性リンパ腫を見つけることを目的に毎年人間ドックを受けるよりは、気になる症状がある場合にすぐかかりつけの医師に相談する方が有用だと思います。
【質問④】
悪性リンパ腫と確定される前にはたくさんの検査が必要なようですが、確定までにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?
坂田 悪性リンパ腫の確定に、組織生検という検査が不可欠です。この検査の結果が出るまでには少し時間がかかります。確定までには、だいたい数週間くらいかかる、と考えていただいていいと思います。
木佐 患者さんからすると、「ちょっと長いなぁ」という感じがします。
坂田 そうですね。ご心配な時間だろうと思います。組織生検とは、がんがありそうな部分を少しだけ切り取って調べる検査なのですが、切り取った検体をいくつかに切り分け、さまざまな検査を行います。この中で一番大事なのが病理組織検査です。切り取った部分を顕微鏡で観察し、本当にがんがあるのかどうか、あるのであればどのようなタイプなのかを調べるという検査になります。悪性リンパ腫の場合、リンパ球の形や大きさに異常がないかを調べていきます。これに組み合わせて行われるのが、染色体検査、遺伝子検査、フローサイトメトリーなどです。これらは病理組織検査を補い、がんの性質やタイプなどを詳しく見るための検査になります。ここで正確な情報を得ることが、その後の治療方針に大きく関わってきます。多少時間はかかっても、しっかりと検査をして確定診断へつなげることが肝心です。
【質問⑤】
風邪が原因でリンパ節が腫れることはありますが、悪性リンパ腫によるリンパ節の腫れと見分ける方法はあるのでしょうか?
坂田 風邪の場合のリンパ節の腫れは、触ると少し痛いことが多いと思います。でも、悪性リンパ腫による腫れの場合は、あまり痛くありません。その他にも悪性リンパ腫の腫れや(リンパ節の腫れなどによる)しこりは、弾性硬(硬くて弾力がある)、可動性良好(触ると動く感じがする)などの特徴があります。ただし、判別はなかなか難しく、自己判断は心配です。
木佐 やはり、一般の人には判別するのは難しいと思った方がよさそうですね。
坂田 そうですね。悪性リンパ腫による腫れの場合は痛みがないとか、弾性硬があるとかお話ししましたが、リンパ節の中で出血や壊死がある場合には、その部分に痛みを感じたり、柔らかく感じたりすることがあります。また、悪性リンパ腫以外のさまざまな疾患でもリンパ節が腫れることがあり、その中には重大な疾患も含まれます。首や脇の下、ひじや太ももの付け根などに気になるところがあれば、早めにかかりつけ医に相談をしていただくことが大事だと思います。
【質問⑥】
血液のがんというと移植が行われるイメージがありますが、悪性リンパ腫になると必ず移植をするのでしょうか?
坂田 悪性リンパ腫でも移植をすることはありますが、そのほかに薬物療法や放射線療法、手術療法など、さまざまな治療法があります。リンパ腫のタイプやそれぞれの患者さんの状態などによって、最適な治療法を選択することになります。
木佐 それぞれの治療法について、簡単にご説明いただけますでしょうか。
坂田 はい、まずは薬物治療です。悪性リンパ腫は非常に多くの種類に分類され、それぞれどんな薬が効くかは異なります。使用される薬には、全身のがん細胞を攻撃する、いわゆる抗がん剤や、がん細胞に特徴的なたんぱく質や遺伝子を攻撃してがん細胞の働きを抑える分子標的薬などがあります。いくつかの薬を組み合わせて治療を進めていきます。また、放射線療法というのはがん細胞のDNAに傷をつけ、その働きを抑える治療法です。単独で行う場合もありますが、悪性リンパ腫の種類によっては薬物療法と組み合わせながら行います。乳がんや肺がんなどと違い、悪性リンパ腫の治療として手術を行うことはあまりありませんが、種類によっては、手術で病気の場所を取り除く場合もあります。
木佐 では、移植についてはいかがでしょうか。
坂田 悪性リンパ腫の治療としての移植は、専門的には「造血幹細胞移植」と言われるものです。放射線や抗がん剤による治療を行った後、造血幹細胞を移植し、血液を作るところ全体を取り替える治療です。例えば、悪性リンパ腫の経過中に再発した場合などに移植を行うことで治癒を目指す場合があります。
木佐 治療について、他にも何か情報があれば教えてください。
坂田 例えば「免疫療法」というのがあります。これは、患者さん自身が持っている免疫の力を利用して、がんの働きを抑えてしまおうという治療法です。がん細胞が免疫細胞による攻撃を逃れる仕組みに働きかけ、免疫細胞の力を回復させる「免疫チェックポイント阻害薬」や、患者さんから採取した免疫細胞に遺伝子操作を加え、免疫機能を強化してから、もう一度患者さんの体に移植する「キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法」などがあります。
【質問⑦】
最近は、患者さんの方からも治療についての意思表示をすることがあると聞きましたが、治療については、医療のプロフェッショナルである医師に従っていればいいのではないでしょうか?
小川 最近のがんの治療は、いくつかの治療を組み合わせて行う、複合的な治療が中心です。マラソンのように長期にわたる治療を円滑に行うには、患者さんの病気に対する考えや治療への要望、生きる上での価値観などを反映して行う必要があります。そのためには、患者さんご自身が生活上の懸念や心配事、希望などをどんどん、医師や医療チームに示していただくことが大事です。
木佐 悪性リンパ腫のような難しい病気だと、なんとなく先生の言うことを聞いていれば大丈夫、という風に思いがちですが、もうそういう時代ではないのですね。
小川 「医師に従っていればいい」という考え方は「パターナリズム」といい、かつて医療の主流の考え方でしたが、それではダメだということで、医師が患者さんに病状や治療についての情報提供を行い、患者さん自身に治療についての意思決定をしてもらう「インフォームドコンセント」という考え方の時代になりました。ただ、これも医師の説明が不十分だったり、患者さんが説明の内容をよく理解しないまま治療内容に合意してしまったり、という欠点があり、新たに提唱されるようになってきたのが、「患者参加型医療(シェアード・ディシジョン・メイキング)」です。
木佐 私たち患者サイドの意見も、治療に反映されるということでしょうか。
小川 はい。昔は治療一本道という感じでしたが、今は治療をしながら、患者さんの生活をしっかり成り立たせていくことが重要だと考える時代になっています。そのためには私たち医師も当然頑張りますが、やはり患者さんにもより積極的に治療に関わっていただきたいと思います。
【質問⑧】
自分で病気のことについてインターネットで調べても、いろいろなWebサイトがあり過ぎて迷ってしまいます。知りたい情報を調べるにはどうすればいいのでしょうか?
小川 手軽に病気について調べることができるインターネットは確かに便利ですが、信頼度の低いサイトもあり、そこにある情報は玉石混交だといえます。その中から、いかに質の高い、より確かな情報を得ていただくかが重要です。
木佐 病気の名前で検索するだけで、たくさんのWebサイトがヒットしますけれども、信頼度の低いサイトというのはどれくらいあるのでしょうか?
小川 海外と日本では事情が少し異なりますが、日本の場合は規制が緩いという面もあり、がんについての247のWebサイトの信頼度を調べたところ、科学的根拠に基づいて信頼できる情報を提供していたサイトは10%程度でした。逆に公的に承認されていない情報や根拠のない広告など、有害な情報を提供していたサイトが40%近くありました(*7)。それが今の日本の状況だと言えると思います。
木佐 危険なサイトを見分ける方法はあるのでしょうか?
小川 公的な機関が運営しているサイトなら、より確かな情報を得られると思います。日本では、国立がん研究センターが提供している「がん情報サービス」や、各都道府県のポータルサイトがおすすめです。科学的根拠に基づいた信頼できる情報が提供されているので、最初はこういう信頼できるサイトから情報を集めていただければと思います。その上で主治医や医療チームと相談していただくのが、より良い確かな治療につながると思います。
【質問⑨】
担当の先生と、どうもコミュニケーションがうまくいきません。このような時、セカンドオピニオンを利用すると、主治医の先生はどのように感じるのでしょうか?
小川 「セカンドオピニオンは主治医に対して失礼じゃないか?」と懸念される患者さんはよくいらっしゃいますが、セカンドオピニオンは患者さんの権利です。なので、積極的に使っていただくことが大事です。
木佐 でも、セカンドオピニオンというと、なんとなく主治医の先生を信頼していないように見えてしまう気がするのですが‥‥。
小川 そこを懸念される必要は全くありません。なぜなら、セカンドオピニオンは主治医を変えたり、転院をしたりするのとは全く別のシステムだからです。セカンドオピニオンを使うということは、より多角的な視点で疾患や治療法を検討することになり、患者さんだけでなく医師もまた治療や疾病に関する理解を深めることができます。
木佐 セカンドオピニオンをいただく際は、こっそりではなく、ちゃんと主治医の先生にお伝えしてからの方がいいのでしょうか?
小川 セカンドオピニオンを受ける際は、確実に情報を伝えることが肝心です。情報が欠けてしまっては、せっかくのセカンドオピニオンの機会を十分に生かすことができなくなります。主治医にきちんと申し出て、今ある情報を全部出してもらい、セカンドオピニオンをもらう医師に確実に伝えるようにしましょう。
【引用】
*1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
*2)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)
*3)Lymphoma Study Group of Japanese Pathologists. Pathol Int. 2000 ; 50 (9) : 696-702.
*4)日本血液学会:造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版補訂版, 2020, 金原出版
*5)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))
*6)Usui Y, et al.: Cancer Sci. 2022;113(11):3972-3979.
*7)Ogasawara R, et al.: JMIR Cancer. 2018 Dec 17;4(2):e10031.
提供:中外製薬株式会社
(企画制作:朝日新聞社メディアビジネス局)
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