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緩和ケアというと、終末期のがんの患者さんを対象にした医療行為だと思われるかもしれません。しかし、東北大学の井上彰先生は、緩和ケアは終末期に限らず、患者さん自身が必要性を感じたら、いつでも受けられるものだと話します。さらに、対象疾患はがんに限らず、ケアには医療以外の支援も含まれるのです。患者さんの苦痛を和らげ、生活の質(QOL)を高める緩和ケアについて、先生にわかりやすく解説していただきました。
自分らしく より良く生きる
講師
井上 彰 先生
東北大学大学院医学系研究科
緩和医療学分野 教授
point1 苦痛を感じたら受診を
――緩和ケアの目的を教えてください。
重い疾患を抱えた患者さんは、肉体の痛みである「身体的苦痛」だけでなく、不安やいらだち、うつといった「精神的苦痛」や、人間関係や経済状態の悪化といった「社会的苦痛」など、様々な痛みやつらさに悩まされます。
「スピリチュアル(霊的)な苦痛」と呼ばれるつらさもあります。例えば、疾患によって他人の手を借りなければ日常生活ができなくなり、自分には生きる価値がないと悩む。こうした人間の尊厳に関わるつらさや、死への恐怖などが、スピリチュアルな苦痛に当たります。
緩和ケアとは、患者さんのこうした苦痛を少しでも軽減し、QOLを高めることを目的としたアプローチです。
――緩和ケアはターミナルケア(終末期医療)とは違うのでしょうか。
現在の日本では、緩和ケアに対していくつかの誤解があります。その一つがターミナルケア(終末期医療)との混同です。ターミナルケアは確かに緩和ケアの一部ですが、その全てではありません。人生の終末期に行われるターミナルケアとは異なり、緩和ケアは疾患の進行度や年齢とは関わりがありません。痛みやつらさから患者さん自身が必要性を感じたら、その時点で緩和ケアの対象となります。また、がんの患者さん向けと捉えられがちな緩和ケアですが、心不全や呼吸不全などの疾患でも実施されます。
緩和ケアを、苦痛を抑えるためだけの処置と捉えるのも間違いです。苦痛の緩和は患者さんの前向きな生活を促進し、病気に立ち向かう力となります。がん治療と並行して緩和ケアを受けたがんの患者さんの方が、受けない患者さんよりも生存期間が長いというデータもあります(※)。
──緩和ケアを受けるには、どうしたらよいのでしょうか。
主治医に申し出て、専門機関を紹介してもらい、受診するというのが一般的な流れです。しかし、残念ながら日本では緩和ケアの認知度がまだ低く、紹介が受けられないケースもあります。そうした場合は、全国のがん診療連携拠点病院に置かれた相談窓口に問い合わせることをお勧めします。がんはもちろん、それ以外の疾患でも相談できます。
また、在宅での緩和ケアも広がっています。住み慣れた環境で医療を受けることは精神的にリラックスできますし、選択肢の一つといえるでしょう。
point2 様々な専門家が患者さんを支援
――緩和ケアにはどういう人たちが関わり、どのような治療が行われますか。
医師や看護師を中心に様々な専門家がチームを組み、痛みの軽減を図ります(図)。
身体的な痛みの緩和には、医療用麻薬が主に使われます。同薬には多くの種類があり、患者さんの痛みの性状や特徴、生活スタイルに合わせて、それらを使い分けます。そして、これに放射線治療、神経ブロック、リハビリテーションなどを組み合わせます。
社会的苦痛やスピリチュアルな苦痛には、医療従事者以外の専門家も関与します。例えば、経済的な悩みにはソーシャルワーカーが、スピリチュアルな苦痛には臨床宗教師という宗教者が相談に当たることもあります。
患者さんの苦痛(全人的苦痛)を様々な専門家が支える
――麻薬と聞くと怖く感じます。
非合法の麻薬の乱用は重大な結果を招く恐ろしいものですが、医療用麻薬は医師が出す処方箋に基づいて治療の一環として使用されます。薬である以上、副作用を生じることはありますが、主治医の管理のもと、適切な量を使用すれば過度な心配はいりません。依存症を恐れる患者さんもいますが、必要がなくなれば、当然、投与をやめます。量の調節や副作用の管理は主治医にお任せください。
最近は治療と仕事との両立を実現する患者さんが増えています。医療用麻薬は眠気を催すことがありますから、自動車など機械の運転は避けていただきますが、デスクワークなら十分可能です。患者さんが医療従事者やソーシャルワーカー、両立支援コーディネーターなどを交え、勤務先と調整して、仕事を続けることができれば、経済的な悩みも軽減されるのではないでしょうか。
――緩和ケアを受けるときの注意点は。
人生には、治療と同程度、あるいはそれ以上に大切なものがあるものです。非常に大切にしている行事を控えており、手術はその後に受けたいという希望を持つ方もいます。
緩和ケアに限りませんが、そうした自分の希望や気持ちを、医師やご家族に伝え、きちんと話し合う。そして医師と患者さんがともに治療法を決定することが「自分らしく、より良く生きる」ためには重要です。シェアード・デシジョン・メーキング(共同意思決定)という考え方ですが、緩和ケアの方向性の決定にも、このプロセスが非常に重要だと考えています。
※出典:Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer.
Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, et al. N Engl J Med. 2010 Aug 19;363(8):733-42.
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