[ad_1]
ポリープとは何か
限局性の隆起病変を臨床的にポリープと呼びます。大腸ポリープはその病理組織上の特徴から、腫瘍性の「腺腫」、非腫瘍性で組織学的に鋸歯状病変をもつ「過形成性ポリープ」、その他の非腫瘍性ポリープ(炎症性ポリープ、過誤腫など)に分類され、腺腫はがん化のリスクがあることから積極的に介入されていました。
しかし、臨床的外観が過形成ポリープに類似し、基本的な組織学構造も鋸歯状病変を呈するポリープのなかに、組織学的な腫瘍性変化の兆しが認められるsessile serrated lesion(SSL。従来SSA/Pと呼ばれていたが2019年に名称変更)や、明らかな細胞異型が認められるtraditional serrated adenoma(TSA)が混在していることが明らかになりました。
現在、これらの病変のがん化リスクは完全には明らかになっておらず世界的に統一された介入方法は確立していませんが、拡大内視鏡による表面構造観察などを用いながら腺腫と同様に慎重に対応されるようになってきました。
疫学
大腸腫瘍(大腸腺腫・大腸がん)の国民全体の罹患率は上昇傾向です。この背景には高齢者の増加があると思われ、年齢調整罹患率ではおおむね横ばいです(図1)5)。
いくつかの危険因子が指摘されていますが、「糖尿病、喫煙、肥満」は日常診療でも介入できるため、積極的な生活習慣の見直しを提案しましょう(表1)6-8)。
病態生理
大腸がん、大腸腺腫の発生に関しては不明な点も多く残されています。現在判明している発生経路には以下の3つのケースがあります。
▶ adenoma-carcinoma sequence
正常粘膜から大腸腺腫ができ、そこから大腸がんに発展するケースです。多くの大腸がんはこの発症様式をとるため、前がん病変である腺腫性ポリープの段階で介入する必要があります。増大速度は一般的に緩徐で、腺腫性ポリープが浸潤がんになるまでに約10年かかるといわれています9)。
▶ de novoがん
正常粘膜からいきなり大腸がんが発生するケースです。日本における大腸がんの約20%を占めるとされています10)。
▶ 遺伝によるがん
大腸がんが発生しやすい遺伝的素因をもつケースです。代表的な疾患として、リンチ症候群、家族性大腸腺腫症、MUTYH関連ポリポーシスがあります。それぞれ、特徴的な表現型(疾患の組み合わせ)があります(本書Overview 4参照=本連載では割愛します)。
遺伝性大腸がんのうち特に頻度が高いものはリンチ症候群です。リンチ症候群の日本における有病率は判明していませんが、全大腸がんの2%を占めるとされています11)。リンチ症候群患者の約50%以上が大腸がんを発症し、30%以上が子宮内膜がんを発症します。リンチ症候群は家族性大腸腺腫症やMUTYH関連ポリポーシスと異なり、ポリポーシスなどの目に見えるわかりやすい特徴がないため、「50歳未満での発症」「同時性多発大腸がん」「重複がん」「リンチ症候群が疑われる家族歴」から積極的に本症を想起する必要があります。
疑わしい場合には遺伝子検索が必要ですが、子どもへの告知や検索する遺伝子の範囲など配慮すべき点が多岐にわたるため、遺伝カウンセリングを行っている専門施設に紹介するのが無難と考えます。
▶ serrated pathway
近年、新たに提唱されている経路です。歴史的に過形成性ポリープは「組織学的に鋸歯状構造をもつ良性ポリープでがん化リスクは少ない」と考えられてきました。しかし鋸歯状病変のなかにはSSLやTSAなどがん化の可能性をもつものが含まれていることが次第に明らかになってきました。Adenoma-carcinoma sequenceで認められる遺伝子変異とは異なった遺伝子変異が想定されていますが、詳細な機序はまだ判明していません。
早期発見
大腸がんの各Stage累積5年生存率において、早期Stageほど死亡率が低いことから、早期介入によって大腸がんの死亡を防ぐことができると考えられます(表2)12)。大腸腺腫や大腸がんを早期に発見するための2つの方法を紹介します。
▶ がん検診で発見する
市町村が行う対策型検診と、人間ドックなどの任意型検診があります。日本の『大腸ポリープ診療ガイドライン2020改訂第2版』13)では、40歳から大腸がん検診を受けることを推奨しています。また、「大腸がんの高リスク」に分類される患者はより早期からの検診受診が望ましいとされています(表3)。
残念ながら、日本の大腸がん検診受診率は男性で48%、女性で41%しかありません17)。若い世代に対する啓発活動や無関心層へのアプローチが重要で、検診受診率を高めるためにソーシャルマーケティング手法を応用する方法が研究されています。たとえば、健康ポイントの付与や、ゲームアプリの開発なども試みられています。ただし、「検診を受けたらポイント付与」ではなく「事前付与しておいて検診を受けなければ没収される」ほうが効果的かもしれない、ゲーミフィケーションは無関心層よりも関心層への効果が高い、などの調査結果もあり18)、現時点では開発途上です。われわれが今できることは「検診申し込みの時期が近づいてきたら、かかりつけ患者さんに受診をお勧めすること」でしょう。特に、「受けようか迷っている」人がいれば、ぜひとも背中を押してあげてください。
▶ 病歴や症状から発見する
大腸がんや腺腫性ポリープの既往があれば定期的な観察を行って再発を拾い上げましょう。既往がない場合でも、表4 19~21)に記載した状況に遭遇したときには大腸がんのスクリーニングを行いましょう。
排便習慣に関しては便秘・下痢のどちらも生じることがあり、進行がんでは便の狭小化も起こります。憩室炎では5%に進行性腺腫、2.7%に大腸がんが認められたという研究結果22)があるため、直近で大腸内視鏡検査が施行されていない場合は検査を行うことが推奨されています。大腸がんの初期症状として膿瘍が発見されることは比較的まれですが、腹膜膿瘍、後腹膜膿瘍・肝膿瘍が認められた場合に原因精査により大腸がんが発見されたという報告があります20, 23)。ストレプトコッカス・ボビスやクロストリジウム・セプチカム菌血症が認められた場合には10~15%に大腸がんが認められるといわれています19)。
(林 諒子・天野 雅之、大腸がん・大腸腺腫2につづく)
文献
1) Robertson DJ, et al : Recommendations on fecal immunochemical testing to screen for colorectal neoplasia : a consensus statement by the US Multi-Society Task Force on colorectal cancer. Gastrointest Endosc, 85(1) : 2-21, 2017. [PMID : 27769516]
2) 藤本一眞, ほか:抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン. Gastroenterol Endosc, 54(7) : 2075-2102, 2012.
3) 加藤元嗣, ほか:抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン 直接経口抗凝固薬(DOAC)を含めた抗凝固薬に関する追補2017. 日内視鏡外会誌, 59(7) : 1547-1558, 2017.
4) 斎藤 豊, ほか:大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン. 日内視鏡外会誌, 62(8) : 1519-1560, 2020.
5) 国立がん研究センターがん情報サービス:全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ). https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/ncr/monitoring.html【2022年2月2日閲覧】
6) Karahalios A, et al : Weight change and risk of colorectal cancer : a systematic review and meta-analysis. Am J Epidemiol, 181(11) : 832-845, 2015. [PMID : 25888582]
7) Inoue M, et al : Diabetes mellitus and the risk of cancer : results from a large-scale population-based cohort study in Japan. Arch Intern Med, 166(17) : 1871-1877, 2006. [PMID : 17000944]
8) Botteri E, et al : Smoking and colorectal cancer : a meta-analysis. JAMA, 300(23) : 2765-2778, 2008. [PMID : 19088354]
9) Winawer SJ, et al : Colorectal cancer screening : clinical guidelines and rationale. Gastroenterology, 112(2) : 594-642, 1997. [PMID : 9024315]
10) Goto H, et al : Proportion of de novo cancers among colorectal cancers in Japan. Gastroenterology, 131(1) : 40-46, 2006. [PMID : 16831588]
11) 大腸がん研究会:遺伝性大腸癌診療ガイドライン2016年版. http://www.jsccr.jp/guideline/2016/hereditary_particular.html#no2【2022年2月2日閲覧】
12) 大腸癌研究会:全国登録2000~2004年症例. http://www.jsccr.jp/registration/index.html【2022年2月2日閲覧】
13) 日本消化器病学会 編:大腸ポリープ診療ガイドライン2020改訂第2版. 南江堂, 2020.
14) Provenzale D, et al : NCCN Guidelines Insights : Colorectal Cancer Screening, Version 1. 2018. J Natl Compr Canc Netw, 16(8) : 939-949, 2018. [PMID : 30099370]
15) Syngal S, et al : ACG clinical guideline : genetic testing and management of hereditary gastrointestinal cancer syndromes. Am J Gastroenterol, 110(2) : 223-262, 2015. [PMID : 25645574]
16) Farraye FA, et al : AGA medical position statement on the diagnosis and management of colorectal neoplasia in inflammatory bowel disease. Gastroenterology, 138(2) : 738-745, 2010. [PMID : 20141808]
17) 厚生労働省:2019年国民生活基礎調査. がん検診の受診状況.
18) NTTデータ経営研究所:健康無関心層の行動変容に対する効果的な介入手法の解明に向けた調査. https://www.nttdata-strategy.com/assets/pdf/newsrelease/201028/summary_results.pdf【2022年2月2日閲覧】
19) Panwalker AP : Unusual infections associated with colorectal cancer. Rev Infect Dis, 10(2) : 347-364, 1988. [PMID : 3287564]
編集
板金 広(いたがね・ひろし)
いたがねファミリークリニック院長
1984年大阪市立大学(現 大阪公立大学)医学部卒業。大阪市立大学医学部附属病院、国立循環器病研究センター、大阪市立総合医療センターを経て、1998年より現職。
上田 剛士(うえだ・たけし)
洛和会丸太町病院救急・総合診療科部長、21世紀適々斎塾副塾長
2002年名古屋大学医学部卒業。名古屋掖済会病院、京都医療センター、洛和会音羽病院を経て、2010年より現職。
矢吹 拓(やぶき・たく)
国立病院機構栃木医療センター内科医長・副部長
2004年群馬大学医学部卒業。前橋赤十字病院、東京医療センターを経て、2011年より現職。
<オススメ書籍・南山堂>
Common Diseases Up to date
大阪の注目医学塾「21世紀 適々斎塾」の講師陣による外来知識ブラッシュアップのための指南書。日常診療でよくみる57疾患を、開業医の実臨床に役立つ知識にフォーカスして詳細に解説しました。各疾患の病態から診療までをビジュアルで整理した「Overview」、外来診療で最低限必要なエッセンスを整理した「Minimum requirement」など、魅力的なコンテンツも盛りだくさんです。
電子版の購入はこちら
書籍版の購入はこちら
Common Diseases Up to date
関連書籍
[ad_2]
Source link