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エーザイと米医薬品大手のバイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」(製品名:レケンビ)の日本における承認が今秋にも見込まれ、大きな話題となっている。アルツハイマー病の発症原因と考えられる物質に働きかけ、症状の進行を抑える待望の「疾患修飾薬」だが、実際、“価格に見合った”効果を得られるのか。また今後、どのような認知症薬の登場が見込まれるのかを、東京大の教授で日本認知症学会理事長の岩坪威さん(63)に聞いた。(前編:エーザイのアルツハイマー病新薬「レカネマブ」の誤解 知っておくべき効果や課題)【西田佐保子】
20年以上前から脳内にたまり始める「アミロイドβ」
認知症の原因の一つである「アルツハイマー病」は、進行性の脳の病気だ。
詳細な発症メカニズムは解明されていないが、発症のおよそ20年前に異常たんぱく質の「アミロイドβ(以下、Aβ)」が脳内にたまり始め、それがきっかけとなり、別の異常たんぱく質の「タウ」が蓄積し、神経細胞死を引き起こすとされる「アミロイド仮説」が有力視されている。
アルツハイマー病の進行過程としては、Aβとタウが蓄積しても症状のない「プレクリニカル期」を経て、物忘れなどの症状が出はじめる「軽度認知障害(MCI)」に、その後発症する。徐々に日常生活に支障をきたすようになり、軽症から中等症、重症へと進んでいく。
レカネマブは、アミロイド仮説に基づき開発された治療薬だ。投薬対象者は、脳内にAβが蓄積した、アルツハイマー病が原因の軽度の認知症の人と、その前段階のMCIの人(総称して、早期アルツハイマー病)。
アメリカで承認されている(日本では未承認)アデュカヌマブ(製品名:アデュヘルム)と同じく、Aβに結合する特徴を持つ「抗体」と呼ばれるたんぱく質(抗Aβ抗体)を投与する抗体薬で、国から医薬品としての承認を得るための最終治験「Clarity AD(第3相臨床試験<P3>)」では、18カ月で症状の進行を27%緩やかにする効果を示した。
では、アデュカヌマブとの違いは何か――。
Aβは、単量体(モノマー)から、老人斑といわれる塊(アミロイド・プラーク)を作る過程で、連なる分子の数や形態が変わっていく。同じ抗Aβ抗体であっても、どの段階のAβをターゲットにしているかで効果にも違いがでてくるようだ。
レカネマブは、Aβが凝集していく過程の中間段階で強い毒性を持つといわれている可溶性のプロトフィブリル(できかけの短い線維)に選択的に結合するのに対し、アデュカヌマブは、より凝集が進んだ不溶性のアミロイド線維に最もよく結合するとされている。
治療中も症状の変化は感じられないかもしれない
――多くの人が最も知りたいのは、レカネマブが実際どれだけ“効く”のかだと思います。
その中で、非常にショッキングだったのが、アメリカのアルツハイマー病専門家によるワーキンググループがまとめた「レカネマブの適正な使用に関する推奨事項(LECANEMAB: APPROPRIATE USE RECOMMENDATIONS)」(※)にある「有効性の裏付けとなる認知機能の低下などの変化は家庭でも臨床現場でも実感することは困難であろう」という記述です。
本人もケアを担う人も薬の効果を感じられず、治療に対するモチベーションも下がるのではないかという懸念があります。
◆最終治験では、18カ月で、レカネマブを投与したグループは、プラセボ(偽薬)グループに比べ、生活機能や認知機能がゆっくり低下していき、症状の進行スピードも緩やかになりました。経過中も自然経過よりもより良い状態で生活していただくことができたのです。
これは乱暴な例えかもしれませんが、降圧剤や脂質異常症治療薬を使用している人は大勢います。血圧やコレステロール値が下がっても自覚症状は変わりませんよね。
でも、動脈硬化を予防するエビデンス(科学的根拠)があって、不可逆的な脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞などの血管障害の発症率が下がることははっきりしています。
レカネマブも個人レベルでは、症状がゆっくり進んでいるのは薬の効果なのか、あるいはある程度の進行がみてとれるのは薬が効いていないからなのか、確定することはできません。
しかし、治験で平均値として27%の悪化抑制効果があり、18カ月で5.3カ月進行を遅らせることができるというエビデンスがあります。
ただ、投薬しても「全然変わらない」と思う人もでてくるでしょう。症状が元のレベルより改善することを期待している人が多いからです。「今より症状を軽くする薬ではない」という点は、根気強く伝えていく必要があります。
――レカネマブのアメリカでの販売価格は年2万6500ドル(約390万円)です。(公的保険制度の給付対象になる)保険収載をされても、降圧剤などと違い、高額な治療費がかかります。
治療中は、アミロイドPET(陽電子放射断層撮影)や磁気共鳴画像化装置(MRI)での定期的な検査も必要です。日本では薬価(薬の公定価格)は下がることも予測されますが、費用対効果的な問題があります。
◆確かに医療経済的な問題もあります。日本での販売価格は決まっていませんが、高額療養費制度もあるので個人の負担は抑えられるでしょう。(注:70歳以上で、年収156万~約370万円<住民税非課税世帯を除く>であれば、年間で14万4000円が自己負担の上限になる)
また、認知症の症状が進んでくると、介護する人の人件費がかかります。介護費用の削減や家族の介護負担の軽減などをトータルで長期的に考えると、費用対効果は生じてくるのではないでしょうか。
とはいえ、患者さんの負担が減ったとしても、医療保険財政への影響は別問題です。
先ほどお話ししたとおり(※)、導入当初の投薬対象者は1万人程度でしょうから影響は限定的です。ただ、将来的に、どれだけの人が治療を受けるのか、それに伴う医療費に我々は耐えきれるのか、という次の問題も出てきます。
――レカネマブの投薬をやめる時期について、使用上の注意や用法・用量、効能や副作用などの情報を含む米食品医薬品局(FDA)の医療者向け「添付文書」(※PDF)には明記されていません。
◆「認知症が中等度以上に進んだときに治療を中止する」が目…
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