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東京医療保健大学の櫻井智穂子准教授は、看護師として臨床の現場から多くの人の最期を見つめ、その後、終末期に関わる本人やその家族の意思決定に関する研究を長年続けてきた。4回にわたり、余命宣告された後の家族の関わりあいについて触れてきた。最終回の今回は、終末期について研究を続ける櫻井氏に、これまで出会った家族の中で最も印象に残っている家族についてを聞いた。
◇ ◇ ◇
緩和ケアを頑なに拒否する夫
当時、70代のAさんは、「努力すれば願いは必ず叶う」がモットーの男性だった。Aさんはそれまで、自らの努力でこれまで様々な困難を乗り越えてきたという。Aさんは終末期がん患者であったが、「辛い治療に耐えれば必ず治る」と考えていた。
「Aさんは頑なに医療用麻薬を使った※緩和ケアを嫌い、一切受け付けませんでした。それを受けることは、自分が最期だと受け入れることになるからです」
末期だったため、効果的な治療がなく、またがんの痛みをとる治療を拒否したAさんは一時的に退院し帰宅。外来に通いながら、自宅で妻が介護をするという生活をおくるようになった。
ところが、ある日の外来で、Aさんの妻は主治医に対して、Aさんの再入院を希望した。
「うちの人を入院させてください。そして、緩和ケアを受けさせてください」
Aさん本人は、まだ緩和ケア治療を受けることには反対し、特に医療用麻薬を使われるのを嫌がっている状況だったという。しかし、Aさんの妻はもう、Aさんが自宅で激しく痛がったり苦しんでいる様子を見るのが耐えられなかった。
常時介護をしているAさんの妻からの直接の頼みということもあり、Aさん本人の意思に関係なく、その時は緊急入院という措置が取られることとなった。入院後、Aさんには医療用麻薬を使った痛みをとる治療が施されたが、それから一週間後、Aさんは安らかに息を引き取った。
後悔する妻 「私が直接納得させたかった」
櫻井氏は死亡退院から3か月後、Aさんの妻に話を伺いたいとインタビューの時間をもうけることができたという。Aさんの死後、妻は何を思い暮らしてきたのか、その気持ちを聞いてみると、意外な答えが返ってきたという。
「奥様は、Aさんの死の直前、入院させて医療用麻薬で痛みをとったのは正しいことだったと思う反面、『やっぱり本人を納得させられなかったのが心残り』だとおっしゃっていました。そこで私は、医療用麻薬の使用は看護師からご本人に説明し、同意を得てから投与した旨を説明させていただきました。だから、『ご本人も望んだうえでの治療だったんですよ』とお伝えすると、ほっとされた様子でした」
実はAさんの妻自身もあまり丈夫ではなかったため、毎日面会に来られていたわけではなかったという。櫻井氏が病棟の看護師から聞いたところよると、Aさんの妻がいない間は、看護師が本人に同意を得てから麻薬性鎮痛薬を使っていた、というのが事実だったのだ。それでもやはり、Aさんの妻自身が夫を「直接納得させたかった」と心残りがあるようだった。
櫻井氏は少ない時間ではあったが、本人と家族とが一緒にいる時間をできる限り持ち、大事な決定は直接話して決めるのが一番いいと分かったと述べている。
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