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2023.3.6.(月)
MECP2重複症候群、線毛機能不全症候群、TRPV4異常症の3疾患について、医療費助成の対象となる指定難病に含めるべきか—。
既に指定難病となっている「遺伝性ジストニア」と「神経フェリチン症」について、含まれる疾患を一部移管し、「遺伝性ジストニア」と「脳内鉄沈着神経変性症」に整理し直してはどうか―。
3月3日に開催された厚生科学審議会・疾病対策部会の「指定難病検討委員会」で、こういった議論が始まりました。
過去に「要件を満たすか不明確」と判断された3疾病だが、新データ踏まえて改めて審議
国の定めた以下の要件を満たす「指定難病」については、患者の置かれている厳しい状況に鑑みて、重症の場合に医療費助成が行われます。
▽発症の機構が明らかでない
▽治療方法が確立していない
▽長期の療養が必要である
▽希少な疾病で、患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%)に達していない
▽客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している
「がん」など他の施策・支援体系が確立されている疾患は指定難病に該当しませんが、「▼髄膜▼脳▼脊髄▼脳神経▼その他の中枢神経系―に発生した腫瘍は、良性であっても『がん登録』の対象となり(がん登録推進法施行令第1条第2項)、指定難病には該当しない」「それ以外の部位に生じた腫瘍は、良性であれば『がん登録』の対象にならず、指定難病に該当する可能性がある(他の要件を満たすことが必要)」など、判断基準の明確化が随時行われてきています(関連記事はこちら)。
疾病が指定難病の要件を満たすか否かは、研究班や学会の提出した情報・推薦をもとに、専門家で構成される指定難病検討委員会で判断されます。これまでに338疾患(2015年1月実施分:110疾患、2015年7月実施分:196疾患(関連記事はこちら)、2017年4月実施分:24疾患(関連記事はこちら)、2018年4月実施分:1疾患(あわせて5疾患を他の指定難病と統合、関連記事はこちら)、2019年7月実施分:2疾患(関連記事はこちら)、2021年11月実施分:5疾患(関連記事はこちら)が指定難病に該当すると判断され、一定の重症基準を満たす患者については医療費助成が行われています(ただし1つの疾患に複数病名が含まれているケースもあり、病名ベースでは1000疾患を超過すると考えられる)。
今般、指定難病検討委員会には、「2023年度実施分」の候補として、次の3疾患が研究班や関係学会から情報提供・推薦されました。
【神経・筋疾患】(1疾患)
▽MECP2重複症候群
→乳児期早期からの筋緊張低下、重度の精神遅滞、発語発達不全、進行性痙性、反復性呼吸器感染、難治性痙攣を特徴とする
→患者数は約50人で、100%が重症度分類(Barthel Index85点以下)に該当(=医療費醸成の対象となる)
【呼吸器疾患】(1疾患)
▽線毛機能不全症候群(カルタゲナー(Kartagener)症候群を含む)
→線毛に関連する遺伝子異常で生じ、多くの症例では咳嗽を主訴とし、慢性鼻副鼻腔炎、滲出性中耳炎、気管支拡張症、不妊を発症。呼吸器感染を繰り返して、時に呼吸不全を来し、肺移植の適応となる。慢性鼻副鼻腔炎、気管支拡張症、内臓逆位の3徴候とする Kartagener 症候群を含む
→患者数は約5000人未満で、76%が重症度分類(肺機能に関する重症度分類III以上)に該当(=医療費助成の対象となる)
【骨・関節疾患】(1疾患)
▽TRPV4異常症
→カルシウムイオン透過性チャンネルであるTRPV4の遺伝子異常によって発症し、(1)変容性骨異形成症(2)脊椎骨端骨幹端異形成症Maroteaux型(3)脊椎骨幹端異形成症 Kozlowski型 (4)短体幹症(5)短指を伴う家族性指関節症などが含まれます。いずれの疾患でも扁平椎、関節の腫大、拘縮、低身長などを共通の表現型とする。重症度は様々であるが、四肢および脊柱の変形、早発性の変形性関節症や変形性脊椎症に対する整形外科的な対応を要するケースが多い
→患者数は100人未満で、60%が重症度分類(modified Rankin Scale(mRS)3点以上)に該当(=医療費助成の対象となる)
いずれの疾患も、過去に指定難病検討委員会で議論の対象となりましたが「客観的診断基準が明確でない」「長期療養の必要性が明確でない」などの理由で指定難病には含まれませんでした。しかし今般、研究班・学会においてデータの整理、診断基準の明確化などが行われ、「指定難病に含めてほしい」との要請・提案がなされたものです。3月3日の指定難病検討委員会では、「TRPV4異常症について、乳幼児では歩行困難な背景が『疾患によるもの』なのか『発達の過程によるもの』なのかの判断が難しいとも思われるが、本件は『成人の指定難病』の対象とすべきか否かを検討するもので、乳幼児を含めた小児は対象に含まれず、そのような判断の問題は生じない」、「医療費助成の対象となる『重症者』の判断基準については、疾患の特性によりBIやmRS、NYHA分類など、さまざまな指標が用いられる。ADLを精緻に判断する必要がある場合にはBIを用い、簡素な判断で良い場合にはmRSを用いるなど、研究班・学会で最適なものを選択している」点などを確認。「指定難病に含めることが概ね妥当」という方向で議論が進んでいます。
指定難病の中に含まれる疾患を整理しなおし、より明確な診断基準など設定
ところで、2019年3月に開催された指定難病検討委員会では「これまでに指定難病として指定された疾患の中でも、調査技術や医療技術の進展などにより『治療効果が大幅に改善』したものもあるため、指定難病に指定されている全疾患について指定後の調査研究の進捗状況などを各研究班に定期的に報告してもらい指定難病検討委員会でフォローする」考えを固めました。既存の指定難病について「真に医療費助成をすべき疾患か」を検証し直す考えと言えます。
この方針も踏まえ、3月3日の指定難病検討委員会には、次の2疾患について「疾病名、疾病の対象範囲の変更」をしてはどうかとの情報提供・提案が研究班・学会から行われました。
▽告示番号120の「遺伝性ジストニア」について、対象疾患の範囲を「「DYTシリーズ」に限定する
▽告示番号120の「遺伝性ジストニア」のうち「金属代謝に関連するNBIAシリーズ」を、後述の告示番号121の「神経フェリチン症」に含め、疾病名を「脳内鉄沈着神経変性症」に改める
「金属代謝に関連するNBIAシリーズ」について、「遺伝性ジストニア」(告示番号120)から、「脳内鉄沈着神経変性症」(告示番号121)に移管するものです。神経・筋疾患分野の専門家である水澤英洋委員長(国立精神・神経医療研究センター理事長特任補佐)は「両疾患を整理しなおし、基準がさらに明確化され、分かりやすくなっている」と評価しており、「見直しを行うことが概ね妥当」との方向で議論が進んでいます。なお、「NBIAシリーズの移管により、両疾患の対象患者数などがどのように変化するのか」を研究班に確認することになります。
3月下旬予定の次回会合でさらに議論を詰め、その後「パブリックコメントの募集」→「親組織である『厚生科学審議会・疾病対策部会』への報告」→「自治体等への周知(オンライン説明会等を開催)」→「指定難病に係る告示・通知改正」と進む予定です。
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